テスト返しが終わったあと、明らかにやえちんの機嫌がよくなってた。多分いい結果だったんじゃねーの?わかりやすいよねー、やえちんって。
 梅雨に体調悪そうにしてたのだって、一応隠してるつもりだったみたいだし。常に眉間にしわよせてたのに、あれで気付かないひとってばかだよねー。顔色も悪かったし。

「紫原くん!きいて!テストの成績あがってたよー!」
「ふーん」

 そんなの、言われるまでもなく知ってたしー。なんで成績があがった程度でこんなに嬉しそうなんだろ。やえちんって勉強が好きなわけ?

「紫原くんが教えてくれたとこがでたからね、さすが!ありがとー!」
「そんぐらい普通だし」
「そっかあ」

 褒めてないのに相変わらずにこにこしっぱなしだし、勉強の何が面白いんだろー。苦手だって言ってた理数系だって、何であんなに必死になってやるんだろ。苦手なもんはどう足掻いたって苦手だろ。

「あっそうだ!約束覚えてる?アイス食べたい!」
「やえちんもアレ覚えてる?」
「当然です。テスト終わったし、近いうちに作るよ!」
「わーい」

 やえちんの作ったお菓子を食べたのは1回だけだけど、美味しいから好き。やえちんは作るの好きみてーだし、やえちんが好きなだけ作ってオレがそれを食べれば需要と供給がなりたつんじゃねーの?って言ったら、やえちん嫌そうな顔しそうだなー。

「……アイス何味にしよう」

 やえちんってしっかりしてそうで子どもっぽいよねー。ころころ表情が変わって面白いし、あーでも笑ってるときが一番多い気がするわー。ああいうのって見てて飽きないわ、ほんと。それと、よくわかんねーけど放っとけない部分があるよねー、やえちんって。


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 すっごい悩んだけど、バニラ味のアイスバーにした。普通だ!氷菓は嫌いではないけど、すすんで選ぶほど好きっていうわけでもない。どちらかというとなめらかなほうが好き。
 やっぱり外は暑いねえ。アイスの冷たさが気持ちいい。

「…わたしねー」

 なんとなく思い出したことを口にする。ただの気まぐれというか、本当になんとなく話してみたくなっただけ。

「紫原くんのこと、最初すっごい怖いって思ってたんだよねー」
「知ってるしー」
「え、あれ!?言ったことあった!?」
「ないけど態度にでてたし」
「うわ……」

 が、頑張って隠したつもりだったのに…!!そんなに顔が引きつってたりしたのかな、びくびくしてたのかな、うわー…。わっかりやすい紫原くんにばればれって、相当だよなあ…。

「だからやえちんのこと、最初うざーって思ったんだよねー」
「あー…ごめーん…今は全然怖くないからね?」
「それも知ってるしー、もう許してるからいいけど」

 そりゃあ、いかにも怖がってますっていう態度で話しかけられたら気分悪くなるよね。あ、アイス食べなきゃ。若干溶けかかっているからそろそろ危なそう。

「やえちんそれちょっとちょーだい」
「はいはい」

 紫原くんって大きいから、軽く手を伸ばしただけじゃ全然たりないんだなあ。わたしとしては高い位置まで持っていったつもりだったのに。
 紫原くんはすこし手を添えて、若干かがみながらアイスをひとくち食べた。

「背が高いと大変そうー」
「うん、教室の入り口とかしょっちゅうぶつかりそうになるし」
「電車もきつそう」
「つり革邪魔だわー」

 顔にぶつかりそうだもんねー。よし、アイス完食!あー残念、はずれだ。あんまり食べないから当然なんだけど、こういうのってあたりがでたことないんだよね。

「ちぇ、はずれだし」
「紫原くんも?どんまーい」

 そう簡単にあたるわけないよねー。紫原くんはあたりがでたら喜んでもらいに行ってただろうなあ。

「あ!そうだそうだ。紫原くんって呼ぶの長くてそろそろめんどくさいからむっくんって呼んでいい?」
「うんー、好きに呼びなよ」
「やった、ありがと!」

 もうそこそこ仲良くなったからあだ名ぐらいいいでしょう。毎度まいど長ったらしい苗字を呼ぶのってめんどくさかったんだよね。紫原く…むっくんは、あんまり呼ばれかたを気にしないタイプなんだなあ。


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