竹中先輩と生徒会室でふたりきり。兄さんは代表者会議があるから遅くなるらしくて、ぼんやりしながら時間をつぶす。ひまだなー!
「三成くんと一緒ではないんだね」
「部活?って言ってましたよー」
「なるほどね」
むーん。何しよう。考えて見たけどあんまり思いつかないから、とりあえず授業のノートをまとめることにした。兄さんの帰りを待ちたいんだー。…本当はお家に帰りたくないだけなんだけど。
「都子くんは秀吉が好きかい」
「大好きです!自慢の兄さんです!」
えっへん。兄さんはすてきなひとなのである。語れと言われたら一体どこから語っていいかわからなくなる程度には、わたしにとってはすてきなひと。
「君みたいな妹のいる秀吉が羨ましいよ」
「竹中先輩はいないんですか?」
「うん、いないよ」
でも竹中先輩って兄っぽいよねー。わたしの兄は兄さんだけだけど、こう、雰囲気っていうのかなー。妹か弟がいます、って言われても納得してしまうと思う。
弟分みたいなひとたちがいるからかな?竹中先輩から見たら、石田くんも大谷くんも弟的な位置にいそう。そしたら兄っぽいのも納得。
「うーん、でも竹中先輩の弟か妹って、すごく苦しくなりそうですよね…」
「それはどういう意味だい」
「ほら、上ができすぎると比べられるから、居心地が悪くなりそうっていうか」
そりゃあ血のつながりがあるんだから容姿に問題は全くないと思う。きっと美しい系のひとだ。だけど性格とか、学力とか、そのあたりはどうしても差がでてくると思う。
でも我が家ではそういうのは全くなくて、むしろ話さないし、比べられるのもちょっとだけ羨ましいかもしれない。それってつまり見てくれてるってことでしょ?
「…話は変わるが、三成くんとはどうだい」
「むかつくことは多いけど、嫌いじゃないです」
「そうかい」
絶対喧嘩売ってるよな、っていう発言がわりと多いけど普通に話しているときはちゃんと会話できるし、そのあたりは嫌いじゃない。喧嘩売ってきても買うなり倍にしてふっかけるなりすればいいわけだし?
こうやって喧嘩腰に対して喧嘩腰でいけるのは楽だし、だからまあ、嫌いじゃないってわけでして。
「君は勉強が好きなのかい」
「好き…?っていうほどではないですけど…」
じっとノートを見つめる。これぐらいしかわたしにやれることはないからこれをやっている、といった感じだから、それは好きには当てはまらない気がする。これしかないってやり続けてきた結果今があるんだから、いいことではあるね。
本だって好き。夢を見ていられるから。世界観に浸るのは好きだけど、国語によくある作者の気持ちを考えろ的な問題は苦手なんだよね。あれ、必要ある?答えなんてわからないじゃん、そんな問題より答えの決まっている理数系のほうがいい。
「三成くんもね、結構成績がいいんだよ」
「あー、それは納得です」
入学してから今までテストはやっていないからはっきりした根拠があるわけではないけど、頭よさそうには見えるかも。先生に当てられたときとかさらっと答えているし。
「三成くんは中学で常に学年1位だったみたいだし、都子くんも頑張っているようだし、どちらが上なんだろうね」
「…へ、」
「まあ君がどれくらいできるかは、さすがの秀吉も把握していないようだけど…期待しているよ」
次のテスト、楽しみだね。そう言ってふわりと笑う竹中先輩に頬をふくらませる。そういうふうに言われたら頑張るしかないじゃん。石田くんには負けたくない。兄さんがいるからどうとか、それよりも負けたくない。だってむかつくもん。
っていうか学年1位って何?わたし、結構頑張ってたけど1位なんてとったことないよ。一桁ではあったけど。
「石田くんには、負けませんっ」
「うん、応援しているよ」
竹中先輩はひとの扱いというか、誘導のしかたっていうのかな。そういうのうまいなー。さらっとペースに飲み込まれてる気がする。
すごくやる気になってきて、ぱぱぱっとノート整理をすませる。集中していると、がらっとドアの開く音がして、びっくりしたせいかシャーペンの芯が折れた。
「兄さん!お疲れさまー!」
「うむ」
散らかっているものをぱぱっと片付ける。兄さんはまだすこしやることがあるのか、机に何枚もの紙を広げていた。
「秀吉、僕は先に失礼するよ」
「またな、半兵衛」
「またね、秀吉、都子くん」
「はい、また明日ー!お疲れさまです!」
竹中先輩がいなくなって、生徒会室はしんと静まり返った。音といえば紙をぺらぺらめくる音、文字を書く音ぐらい。最初はじっと兄さんの様子を見ていたけど、読みかけの本を思い出してひたすら活字を追う。
「都子、半兵衛はどうだ」
「へ?どう…?すごいひとだなーって思います!」
「ふむ」
竹中先輩はすごいひと。だてに兄さんの友達をやっているわけじゃないんだなーって感じ!すごいひとにはすごいひとが集まるのかな?…いや、そしたら石田くんたちがすごいひとになってしまう。成績はすごい、けど。認めたくない!
こんこんとノックの音がして、がらりとドアが開いた。
「秀吉様、遅くまでお疲れさまです」
「うむ。三成もご苦労であった」
なんていうか、このやり取り、すっごい違和感があったんだけど最近慣れて聞き流せちゃう自分が怖い。慣れって怖いよねー、ほんと。
石田くんのほうに視線をうつすと、ばっちり目が合ったから睨んでやった。そしたら睨み返されたけど、石田くんってほんっと目つき悪いよね。こっち見てるだけなのか、睨んでいるのかどっち?
「…やっぱむかつく」
「何か言ったか」
「いーえ、なんにもっ」
せっかく兄さんとふたりきりだったし、ふたりで帰れそうだったのに、とんだおじゃま虫めっ!