入学してしばらくは、教科書配布だとか、部活の体験入部期間だとかで忙しい。とはいえ、部活は強制ではないのでわたしは迷うことなく入らないことに決めた。配布された教科書は多く、正直徒歩や電車通学のひとがかわいそうになってくる。こんな重たいものをもって歩くことになるなんて…。自転車通学、ばんざい。
 そういえば、ずっと聞きたかったんだけど、こらえていたことがある。おそらく誰もが気になっていることなんじゃないかなー。気にならないと言ったひとは多分普通の感性をもっていないので、頭おかしいひとのレッテルを貼ってあげましょう。おめでとう。

「石田くん、その髪って毎日セットしてるの?」

 突如、ざわついていた教室が静まりかえる。そんなあからさまな。

「?当たり前だ」
「…っ、」

 い、いけない。鏡を見てがっちりセットしている様子を想像したら笑いが…っ、おなかいたい。こらえているのはわたしだけではないようで、ひそかに笑い声が聞こえる。やめて、この教室の雰囲気すらわたしの笑いを誘う要因。

「貴様、何がおかしい」
「い、いや、うん、似合うと思う、すごく」

 低い声に冷静になりかけたものの、視線があうとまた笑いがこみあげてきた。もういっそ殺してくれ。自分で聞いておいてアレだけど正直つらい。何故こんな、前髪でひとが殺せそうな髪型にしてしまったのかわからない。
 やっと呼吸が落ち着いてきて、今日一日石田くんと視線をあわせるのは危険だと思い適当な場所を見ると、ふわふわ浮いている大谷くんの姿が目にはいった。そして、あることに気づいてしまった。…椅子が、ない。椅子に座らず座布団の上に座って浮いている。なななんで、なんで。何がどうしてこうなったの。

「純野、貴様気が狂ったか」
「いや、だっ…て、大谷く、」
「貴様!形部を侮辱する事を断じて許しはしない!」

 椅子の倒れた音が教室に響き、一気に思考が冷静になる。石田くんは兄さんが関わると変わるのは知っていたけど、大谷くんでもそうだったなんて。なにかまずいスイッチを押してしまった気がする…!

「われがどうした」
「こいつが!形部を嘲笑っていた!」
「よい三成。われもぬしらのやり取りを笑うておるゆえ」
「…"ら"?」
「ぬしの聞き間違いよ」

 そんなはずないでしょう、そう思いつつも口をつぐむ。おそらく、どんなに頑張っても大谷くんで口で敵うことはない。
 これはつまりわたしだけでなく石田くんのことも笑っているということ。…石田くんは気づいていないようだけど。

「つまり、お互い様ってこと?」
「そういうことよのォ、ヒヒッ」

 …大谷くんは敵にまわしてはいけないタイプだとわたしのカンが告げている。怒らせるようなことをしたら呪われてしまいそうだ。座布団についても触れないでおこう、怖いし。

「して、純野よ」
「なに?」
「ぬしの太閤へのそれは、三成に通ずるものがある…ヒヒッ」

 去っていく大谷くんの背中を見つめる。わたしは石田くんほど兄さんに対して過激というか、崇めるような、そんな感情は抱いていないんだけどなー。ただ、言われてみれば、自分のなかで兄さんが、豊臣秀吉が一番で自分は二の次という部分はおなじなのかもしれない。…そう思った。

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