女たるもの、料理ぐらいできなくてどうする!
 なぜか突然そう思い、レシピを購入し、どれを作ろうかと選ぶ。そこまではどこか意識が高そうで良いのだとう思う。が、意識の高さと現実は比例しないということを17歳にしてやっと学んだらしいわたしは目の前の惨状を見て絶望していた。まさに地獄絵図。レシピ通りにやっているつもりなのに、まさかまさかの状態で、料理の恐ろしさを思い知った。

「ヨウスケって、すごいんじゃないの、かなり…」

 なぜレシピを見たのにこうも意味が分からない状態になっているのか、わたしでも理解不能だが、それを創作でぱっときれいにかつ美味しく作れるヨウスケは人間なのか。…いや、むしろこの惨状を生んだわたしは人間以下なのではないだろうか。不器用さ的な意味で。
 とりあえず片付けようと思い、ゴミ箱を惨劇の場まで引きずる。芸術は爆発だ!という言葉を聞いたことがあるが、料理も爆発じゃないか…。

「こ、これは…」
「ぎっ!?ヨウスケ、いたの…!?」
「あ、ああ…」

 自分の世界に入っていて気づかなかったのだろう、ヨウスケは後ろで憐れむような目でこちらを見ていた。お願いだからそんな目で見ないでほしい、精神的にしぬ。というかいっそ殺してほしい。穴があったら入りたいとはこのことを言うのだろう。

「これは…炭を作ろうとしたのか…?」
「お願いだから黙って!!今わたしの心が砕ける音したから!!」
「わ、悪い」

 これが冗談だったら笑いながら炭と化した料理だった何かを投げつけるところなのだが、あいにくヨウスケは大まじめにこれを言っているのだから厄介である。そして、大まじめに言っているから、余計にぐっさりと心に突き刺さるのだ。ある意味とてもいいタイミングで来てしまった。心のなかでめそめそと泣きながら、料理だった何かを片付ける。

「料理を…作ろうと思ったの。だけどうまくいかなくて…」
「…そうだったのか」

 あんなふうにぱっと、美味しい料理が作れるヨウスケが羨ましく思う。ヨウスケは何事も最初からうまくできてしまうところがあるけれど、料理に関してはそれとはまた別だと思う。好きだからこそ、これだけこだわれる。たこさんウインナーも、星にカットされたニンジンも。細かいところまでヨウスケはこだわっているのだ。これは才能だなんて、ひとくくりにはできない。

「名前は、料理ができなくてもいい」
「…どういう意味?」

 片付けをしていた手がぴたりととまる。何を言いたいのだろう。すこしむっとしながらヨウスケのほうを向く。ひとが一生懸命練習しようとしている気持ちがわからない、なんてことはないはずだ。

「…チッ、俺がなんでも作ってやると言ってるんだ」
「……」
「名前の好きなもの、なんでも作ってやる。名前のためなら、俺も作りがいがある」
「……な、」

 何を言っているんだお前は。
 女としては、きっと怒ってもいい場面なのだと思う。別に女は料理をしなくてはいけない、できなくてはならないだなんて誰かが決めたわけでもない。逆もしかりだ。それでも、わたしは料理ができるようになりたいのだ。嬉しいけれど、それじゃ、嫌なんだ。

「女として、ってのもあるけど、やっぱり作ってもらってばかりでできないってのも悔しいし、うん。頑張って練習する。だから、ちゃんとできたら、食べてね」
「…楽しみにしてる」
「うん!」

 ただ漠然と料理がうまくなりたいと思っていた。それには義務的な要素が大半を占めていた。言い訳をするとしたら、それが失敗した原因のひとつなのかもしれない。…もちろん、不器用が大半を占めているのだけど。
 わたしは、好きなひとにはやっぱり自分が作ったものを食べてほしいと思う。美味しいと言ってもらいたいと思う。好きなひとの好きなものを知りたいと思う。
 そう思っていたら、ぐっとモチベーションがあがってきた。次はきっと成功する。謎の確信を抱きつつ、片付けをすませ、レシピをぺらぺらとめくる。

「…できたぞ、食うか?」
「あ、うん!食べる!」

 とても妬ましいけれど、でも、あこがれ。ヨウスケ以上とは言わないけれど、美味しい料理を作るヨウスケに、美味しいと言わせる料理を作ってみせる。そう決意し、目の前の料理に手を合わせた。


料理のいろは / 130218

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