一目惚れなんて信じない。そう思っていた時期がわたしにもありました。
 だいたい、一目惚れって何それ。見た目で惚れたってことでしょ?内面見てないじゃん、ただの面食いじゃん。ありえない!

 …ああ、ものすごくぐさぐさくるなあ。ただのブーメラン。泣きたい。

 憎たらしいほど青い空には、雲ひとつ見当たらない。なんでこんな晴れてんの。今そんな気分じゃないから雨降ってくれていいよ。暑いし暑い。
 この教室にはなぜ冷房が用意されていないのか。熱中症になれとでも!?冷房!今すぐ!れーいーぼーうー!!

「空に向かって百面相か?夏バテならぬ夏ボケかね」
「うおあ!?」

 油断しきっているときに頭をぐしゃぐしゃ撫でるものだから、びっくりしてつい変な声がでてしまった。我ながら色気がない。生まれたときから多分ない。
 黒尾の手をぱしっと払い、精一杯睨みつける。何がおもしろいのか口角がすこしあがった気がして気に食わない。

「なんだ、反抗期か?」
「いつも通りですぅ〜」
「ちょっと前はしおらしくて可愛かったのになぁ。こんな子に育てた覚えはありません」
「育てられた覚えもありません」

 何この小学生じみたやりとり。黒尾って見た目はかっこいいのに中身が子どもっぽいんだよね。男子高校生なんてこんなもんなのかな。…それにノッちゃうわたしも似たようなもんだけど!

「俺に告白してきたときは、」
「ぎゃあああ!!?やめっ、やめよそれは!!やめよ!!」
「お前も教科書構えるのヤメロ!」

 はっ、つい反射的に教科書の角で殴りそうになった。いけない、暴力反対。暴力ではなく言葉で勝たなければならないのである。今のところ全敗だけど。

「俺に告白してきた可愛い子はどこに行ったのかね」
「何それ、誰だれ?」
「じゃあ俺は誰と付き合ってんだ?」
「知らないっ」

 気恥ずかしくなって、ぷいっと顔をそらす。誰ってわたしだけど、素直に言うの恥ずかしいじゃん。あと気に食わない。
 むすっとしていると、突然手が頬に伸びてくる。片手でぎゅむっと両頬を掴まれたわたしは、おそらく魚みたいな顔をしていると思う。

「うおっ、変な顔だな〜。写真撮っとくか」
「む!?!?」

 喋れないから、全力で頬を押さえているほうの腕をばしばし叩く。ほんと!こんな性格だって知ってたら告白なんかしなかったよ。ひとを見た目で判断してはいけない、十二分に学びました。
 ようやく頬を押さえるものがなくなって息を吐く。何が悲しくて彼氏の前で変顔しなきゃならないの!したくてしたわけじゃないけど!

「じゃあ、俺にカノジョができたらどうする?」
「浮気反対!!」
「フーン」

 黒尾がニヤニヤしはじめたものだから、はっとなって口を押さえる。わたしってば何言ってんの!ばかじゃないの!恥ずかしい!!

「素直じゃねーな」
「素直です。素直の化身です。黒尾もわたしを見習って」
「お前を見習ったら素直な俺がひねくれちゃうだろ」
「なんだ、いつもと変わらないじゃん」

 素直な黒尾なんて想像できないわ〜。雷が直撃するレベルでありえない。
 笑っていると、突然距離が縮まって心臓が大きな音をたてる。あああ、わたしの心臓ってば何やってくれちゃってんの!耳にふっと息がかかって状況が飲み込めずに視線を泳がせる。

「好きだ」
「っ…!?」

 距離が開いて反射的に顔をあげると、黒尾はいかにも満足ですといった顔をしていた。対するわたしは何か言おうとしても言葉にならず、口をぱくぱくさせるのみ。

「茹でダコ」
「う、うる、うるさ…!!」
「…あ、次移動教室だっつーの忘れてた」
「は!?もう時間やばいじゃん、それを先に言ってよ!」

 急いで準備をして、扉の前で待ってくれている黒尾の腕を掴む。だめだ、顔が熱い。こういうとこもかっこいいんだ。
 そりゃあ、最初は確かに一目惚れだったし、そう思うと見た目だけかって話になるし。もちろん見た目も、むかつくけど好きだ。けど。子どもっぽいとこだって悪くないなって思うし、そういうやりとり楽しいし、もっと話したいし、あああなんていうのかな。つまり、雷、落ちたわ。


title オフィーリアの幻

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