「名前ちんの作ったご飯食べたい」

 外を歩けば電飾に彩られた家々が立ち並ぶ。クリスマスだしどっか行くー?って声をかけたら「寒いから外でたくない」と言い放った名前ちんに、じゃあご飯食べたいと言ったらあっさりオッケーをくれた。
 そういうわけで買い出しにスーパーに来たんだけど。

「結局外出てんじゃん」
「あー、そういえばそうだね…!」

 でもスーパーと寮のあいだしか外にでないし。名前ちんは話しながらぽいぽいかごに野菜をいれていく。選びかたが主婦そのものだよねー。オレからしたら何が違うのか全然わかんないんだけど。

「調味料ー…は家からもってくればいいよね」
「何つくんの〜?」
「グラタンとサラダかなあ」
「ふーん」
「あ、勝手に決めちゃったけど大丈夫だった?」
「うん、名前ちんが作ってくれればなんでもいいし〜」

 付き合いはじめのころは何をしても顔を真っ赤にしていたくせに、いつの間にか照れるんじゃなくて、すっごい嬉しそうに笑うことがふえた。照れてる名前ちんはほんとうに可愛くてついいじわるしたくなる。でもああやってふわっと笑われると、どうしたらいいかわからなくなる。でもすっごい嬉しい、かもしんない。名前ちんの笑顔ってなんかすっげー好き。

「誰かと一緒に買い物行くとカゴ持ってもらえるからいいよねー」
「あ、名前ちんお菓子食べたい」
「…ケーキ買う?」
「じゃあまたでいいや〜」

 びっくり、といった表情で名前ちんはこっちをじっと見た。信じられない、とでも言いたげだし、それすっげー失礼だし。

「ど、どうしたの…?いらないの?え、本気?」
「オレが食べたいのは名前ちんの作ったやつなの」
「…そっかあ、じゃあ何か作ろうか?」
「マジ?」
「まじまじ!」

 名前ちんはしばらく考えてる様子だったけど、何か思いついたらしくあっち行くと言ってすたすた歩いていった。オレが荷物持ちなの忘れてない?この程度全然軽いしいいけど〜。

「卵と生クリーム?」
「うん、明日実家に帰るんでしょ?そしたら多分、むっくんのぶんのケーキ残ってると思うんだよね」
「かもしんない」
「だからプリンを作ろうかなって」

 そう言ってまたすたすた歩いていく。人使い荒すぎだしー。
 やっぱり日が日だからかレジにはたくさんのひとが並んでいる。ぱっと見て進みのはやそうなレジを見つけるあたり、名前ちんってやっぱり主婦っぽいなあと改めて思った。


- - -



「働かざるもの食うべからず、なんだからね」
「オレじゅうぶん働いたし〜」
「プリン作るのやめようかなあ」
「手伝うし」
「ありがと!」

 しょうがないから、プリンのために頑張ってやるし。名前ちんがオレに何をさせたいか知らねーけど、料理なんてまったくしたことねーから邪魔になるだけじゃないの?

「じゃあカラメル作るから、そのあいだにこれ混ぜて!」
「おー」

 慣れた手つきで卵白と卵黄をわけてボウルにおとしていく。すげー、卵のからってああいうふうに使えるんだ。っていうかお菓子作りって結構めんどくさいんだねー。
 優しく混ぜてね!優しく。と念をおされたけど、混ぜるのに優しくも何もあんの?なんて思いつつ適当に混ぜてたら怒られた。意味わかんねーし…。

 そうこうしていたらカラメルができたらしく、容器にそれを移しいれていた。それが終わって鍋を洗ったと思ったらまたいろいろ鍋に投入しだして、正直何やってるかちんぷんかんぷんなんだけど。

「これとむっくんが混ぜてくれたやつを混ぜて、濾すとなめらかになるんだよー」
「ふーん…」
「はい、じゃあ今から蒸します」

 水がちょっと沸騰しだしたら弱火にして5分たったら火を止めてね。そう言って名前ちんはじゃがいもの皮を剥きはじめた。
 お、沸騰してきた。弱火ってどんくらい?…あ、消えちゃった。

「名前ち〜ん、弱火ってどうすんの?」
「え、それもできないの?…これぐらい。5分ぐらいたったら消してね」

 携帯の時計をじっと見つめる。これって正確にはかんないといけないわけ?なんで名前ちんってこんなめんどくさいことが好きなの?

「消した〜」
「ん、じゃああと10分そのまま放置してね」

 今度は10分って、長いしー。タイマーをセットして名前ちんのほうを見る。

「はい、次はじゃがいもつぶして」
「えー」
「…まあ、ご飯いらないならいいけど」
「やるし」

 してやったり。名前ちんがそんな顔をしていたから、何か仕返ししてやろーと思考を巡らせる。

「これってはじめての共同作業、ってやつ〜?」
「へ?あー…うん、そだねー」
「名前ちんってさ、いいお嫁さんになれると思うよ〜」
「……え、」

 横でじっとオレの手元を見ていた名前ちんのほうをちらりと見る。狙い通り顔を真っ赤にしながら口をぱくぱくさせていた。あーかわいい。

「も、もう!そうやってからかって、手元狂ったら責任とってよね!」
「名前ちんがお嫁さんになってくれんのー?」
「もうやだ黙って!!」

 すっごい動揺してるはずなのに手元は安定してるから名前ちんってすごいよなー。慣れた手つきで野菜を切っていく。野菜を切って落ち着いてきたのかだんだん顔の赤みがひいていった。ぶー、つまんねーの。

「こんなもんー?」
「ひっ!?あ、うん、そう、それぐらい」
「動揺しすぎだし〜」
「誰のせいだと思ってんの?誰のせいだと!」

 ぶつぶつ文句を言いながらもやっぱり慣れた手つきで、いつの間にか野菜やソーセージを切り終わって炒めはじめていた。名前ちんって意外と器用なんだねー。全然料理に関心がないからこれが普通なのかもしんないけど、オレからしたらすごいの一言に尽きる。
 ぴぴぴ、と携帯のタイマーが鳴って、名前ちんは片手で炒めながら鍋の蓋を開ける。

「ん、こんなもんかな。むっくん、これ冷蔵庫いれてー」
「まだ食べちゃだめ?」
「だめです」
「ちぇー」

 もうすでに美味しそうなにおいをしているプリンを冷蔵庫にしまう。おなかすいたし〜。

「よし!あとはグラタンをオーブンで10分ぐらい焼きます」
「名前ちんおなかすいた〜」
「玉ねぎ食べる?」
「…耐えるし」

 名前ちんは自分の携帯を確認して、今度はミニトマトとうずらの卵を取り出した。

「今度は何つくんの〜?」
「ふふー、まあ見ててよ!」

 じっと名前ちんの手元を見る。ミニトマトを半分に切って、うずらの卵に生ハムを巻いて。何やってるかよくわかんなかったけど、串をさした瞬間に名前ちんって実は魔法使いなんじゃね、と思いはじめた。

「これはなんでしょうっ」
「サンタさん?名前ちんすげー」
「よかったー、ちゃんと見えるんだね」
「すげー、名前ちんの料理って魔法みたいだし」
「大げさだなあ」

 しばらく話していると、オーブンから音がしていい感じに焼けたグラタンがでてくる。すっごい美味しそうなにおいだし、おなかすいた…。

「持ってくから、座って待ってて!」
「わーい」

 言われたとおり待っていると、目の前にグラタンとさっき名前ちんが作ってたサンタさんの入ったサラダが置かれる。プリンはまだだからね、と言って名前ちんが正面に座る。
 名前ちんがいただきますと言うのに合わせて言ってグラタンを口に入れる。あっつ、けど美味しー!

「すげーうまいし」
「ありがとう!」

 あ、またその笑いかた。なんかよくわかんねーけどちょっと照れくさくなってきて、無言でグラタンとサラダを食べすすめる。…ていうか、このサンタさん可愛すぎて食べづらいんだけど。

「…なんでサンタさんと睨めっこしてるの?」
「可愛くて食べられないし」
「ちゃんと食べてね、食べ物がかわいそうだから」
「わかってるし〜」

 ごめんね〜と心のなかで言いながら口のなかにいれる。ごちそうさまでした。

「…ちょっと多めに作ったつもりなんだけど、足りなさそうだねー」
「ウーン…まあまだお腹すいてるけど、食べたいとは思わないわ〜」
「そうなの?」
「そうなのー」

 他に何かを食べちゃうと名前ちんの料理の味を忘れちゃいそうだし。今はいらないわ〜。
 名前ちんが食べ終わって、ふたりぶんの食器を流しに運ぶ。

「え、ごめん、ありがとう」
「プリン食べたいし〜」
「下心まるだしだなあ」

 ふたりぶんのプリンとスプーンを持ってもどる。とろとろで甘くて美味しいし!

「名前ちんすごいわ…」
「褒めすぎだよー、でもありがとう」

 ほんとに美味しい。気付いたら食べ終わっちゃったけど、ほんとに美味しいものってすこしの量でも満足するもんなんだねー。

「あのさあ」
「んー?」
「クリスマスプレゼント、ほしいから。ひとつお願いごとを聞いてくれないかなあ」
「なに?」

 口を開いて、また閉じて。何度か深呼吸をして今度こそ何かを言うのかと思いきやまた閉じて。目は泳いでいるし、頬も赤くなってきている。え、なに、名前ちんは何をオレにお願いするつもりなの?

「うう、言えない、から、お願いを聞いてくれるかくれないかだけ言ってほしいな!」
「内容がわかんないことには返事できないし〜」
「た、たいしたことじゃないから…ね?」
「まあ、いいけど〜」

 ほっとため息をついたかと思ったら、また頬を赤らめてうじうじしている。そういうの、可愛いからいじめたくなる。何考えてんの?
 名前ちんは小さくうん、とつぶやいて立ち上がった。え、まじで何するつもり?じっと目で追っていると、オレの隣に座ってうつむいた。

「…名前ちん?」
「っ、ごめ、んなさいっ」
「……ちょ、っ!?」

 予想外。かんっぜんに油断していた。どおりで相当照れていたわけだ、名前ちんから抱きついてくるなんて今まで一度もなかったし、できるとも思ってなかったし。すっごい焦るし、あーどうしたらいいの、これ。

「あー…名前ちん?」
「ひえっごめんなさい!?」

 別に、そんなにびびんなくていいのにー。でも飛び退いてくれたのはちょっと助かったかもしんない。

「…はい、おいでー」
「え、」

 ちょっとだけ体勢をかえて、かるく手をひろげる。顔を真っ赤にしてちょっとためらっている様子だったけど、飛び込んできた名前ちんをそっと抱きしめる。予想外すぎるというか、これじゃオレがプレゼントをもらいっぱなしな気がするんだけど。

「名前ちんさー、ここでそういうことするって、オレを試してんのー?」
「へっ!?や、ちが、えと」
「オレだって男の子だし、もうちょっと警戒心をもってほしいし〜」
「お、怒った…?」
「びっくりしただけ〜」

 こういうのって力加減に困るよねー。あんまりぎゅってしちゃうと名前ちんは細くてちっちゃいから壊れちゃいそうだし。大切にしたいんだよね、だから壊したくないし優しくしたい。でもそれと同じくらい可愛すぎていじわるしてみたい、とも思うし。矛盾してるよねー。

「帰省するまえに充電、だし」
「…ん、わたしも。あ、メールしてね」
「当たり前だし〜」

 絶対だよ、と念を押す名前ちんが可愛くて、そっと髪を撫でた。


( 聖なる日の魔法 / 131225 )

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