夕方になるともう冬かと思うほど寒くなる。制服のジャケットを着てマフラーをぐるぐる巻く。マフラーもセーターも結構好きだから、寒いのは嫌いじゃない。いつもよりすこしはやく終わったHRに喜んでか、教室内からあっという間にひとがいなくなった。

「名前ちん、とりっくおあとりーと」
「あ、うん、はい」

 料理部に所属するだけあってか、ハロウィン前から友達に「31日にはお菓子をちょうだいね」とよく言われた。お菓子をつくるのは大好きだし、ちょうだいって言ってくれるのもわたしのお菓子が食べたいってことだから、余計に気合いもはいるよね!
 というわけで、昨日の夜、友達のぶんと絶対このイベントにのっかってくるであろう紫原くんのぶんをきちんと用意しておいたのだ。用意していたのはしっかりなくなって、紫原くんのぶんで最後。

「…あれ、あんまり嬉しそうじゃないね、クッキー嫌い?」
「んー…名前ちんにハロウィンは期待しねーほうがいいなーって思っただけ」
「え、なんで?」
「あ、でもクッキーは好きだからもらうー、名前ちんありがと」
「うん…?」

 紫原くんが何を言いたいのかさっぱりわからないけど、もらってくれたからよしとしておこう。別にクッキーが嫌いとかそういうわけじゃないらしいし、じゃあなんで期待しないほうがいいってなるんだろう。
 ハロウィンなんて、日本ではお菓子を誰かにあげるかもらう、それだけのイベントだと思ってたんだけど、違った?

「あ、紫原くん、とりっくおあとりーと!」
「んー」

 紫原くんは絶対お菓子もってるからきっと何かくれるだろうことを期待して言ってみたんだけど、ちょっと様子がおかしい。まさかとは思うけど、お菓子もってませんってそんな、1年に1回あるかないかぐらい珍しいことを言ったりはしない、よね?

「あー、もう食べ終わっちゃったんだわー」
「えええ…残念…」

 いっつも大量のお菓子をもってる紫原くんなら、普段自分では買わないようなお菓子ももってるかなあと思ったんだけど、ないならしかたない。じゃあ今日は部活もないし帰ろうかなとかばんに手をのばそうとしたが、かばんに届くことなく紫原くんにつかまれた。

「名前ちんさー、今日がハロウィンだってわかってる?」
「え、うん?」
「オレお菓子もってないんだよねー、だからさ、いたずらしてみてよ」
「…!?」

 いやいやたしかにとりっくおあとりーと、お菓子くれなきゃいたずらするぞーって。言うけど、言うけど!日本においてそのいたずらの部分は習慣づいてないからいいでしょって、思ってて!
 もしかして、紫原くんの期待ってそういうこと?わたしがお菓子もってないことを期待してたってこと?いたずらしたかったってこと?…え、じゃあこれ、しかえしか何か?

「む、紫原くん今からコンビニ行く…?」
「オレはこれから部活だしー」
「あーじゃあ急がないと!ね!遅刻はよくないよ!」
「うん、だからさー、はやくしてよ」

 まあ、わかってますけど、紫原くんの手は常人には振りほどけません…よね。いたずら、いたずら…何がいいんだろう。あんまり考えていると紫原くんが本当に部活に遅刻しかねないし。今日のHRは終わるのがはやかったから部活開始時間まであと15分あるけど、考えれば考えるほど思いつかない…!

「んー…」
「名前ちん、おそーい」
「んー…あ、今思いついたから手を離していすに座ってくれない?」
「うんー」

 ポーチから櫛と紫色の小さなリボンがついたゴムを取りだす。背がかなり高いから普段なかなか紫原くんの髪に触る機会はないけど、こうして触ってみると思った以上にさらさらでびっくりする。

「はいできたー!これの色違いのゴムでひとつに結んでみたよ!」
「部活のときにたま〜にこうやってしばってんだよねー」
「えー…でもまあ今回はリボンついてるし」
「うん、名前ちんがしばってくれたしー」

 いたずら、ということでリボンつきのゴムにしたけど、すっごい似合ってないなあ。さすがにこれで部活にいくのはちょっとかわいそうかもしれない。

「じゃ、いたずら終了。もうちょっと座ってて、ゴム普通のに変えるから」
「んー」

 そのまま座らせて、携帯を取りだし後ろ姿を写真におさめる。

「ちょっと名前ちん、何してんの」
「記念に撮っておこうかなーと!ていうかあっち向いて、しばりなおせないから」

 ゴムは返さなくていいからねーと言い、きれいにしばりなおす。この髪だとバスケ中はちょっと邪魔そうだなあ。たまにじゃなくて、いつもしばればいいのに。めんどくさいのかな。

「よし、できたよー」

 いつも頭をぽんぽんするからしかえしとばかりに紫原くんの頭をぽんぽんする。この位置に紫原くんの頭があるなんて、あとぽんぽんできる機会なんて今後あるかわからないからね!できるうちにやらないと。

「ん、ありがとー」
「どういたしまし…て、っ」

 な、なにするの!紫原くんが手で目隠しするから、真っ暗で何も見えなくなる。手が離れたころには、もう後ろ姿しか見えなかった。

「ちょっ…紫原くん!…部活!頑張ってね!」
「うん、またねー」

 紫原くんがいなくなったあとも、しばらく扉を見つめていた。ふとため息をつきつつ、視線を紫原くんの机にうつす。

「あれ、紫原くん、忘れ物…ってこれお菓子!嘘つき!」

 これ、持ち帰って明日問い詰めてやろう。いくつかお菓子もらっちゃおうかなー。紫原くんっていっつもマイペースだから、すこしは焦ったところが見てみたい気もする。忘れてたーってあっさり流しそうな気もするけど。
 さっきのことをぼんやり思い出しながら、教室の鍵をしめる。さっきはすこし寒かったのに、今はちょっと暑いかもしれない。マフラー、いらなかったかなぁ。


( お菓子より甘い秋の暮れ / 131031 )

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