「ねーねー名前ちん、今日オレ誕生日なんだけどー」
「うわーそうだったんだー初めて知ったわー」

 そう言って窓の外に視線をうつすと、紫原くんは「名前ちんの嘘つき」と言いながら口を尖らせた。紫原くんの言うとおり嘘である。だって昨日、「明日はオレの誕生日なのー」って言われたから。別に祝う気が全くないわけではないけれど、単純にちょっと恥ずかしいだけである。ちょっと。
 …何故恥ずかしいか、と問われても自分でもよくわからないため、答えられないのだけど。

「ねーねー名前ちん」
「なーに」
「名前ちん」
「だからなに」
「こっち向いてー」

 視線をうつした瞬間、視界に大きな手がはいって反射的に目を瞑る。驚きつつ目を開けると、紫原くんはにこにこしながら私の頭を撫でていた。

「仕方ないから、これでいーやっ」
「……はあ」

 たったこれだけなのに、そんな嬉しそうな顔をされてはどうしたらいいかわからない。反応に困ってとりあえずため息をついてみたけれど、今の私の顔はきっとひどいことになっているだろう。恥ずかしいという表情がでそうなのを必死でこらえているのだから。

「名前ちん、顔あかーい」
「!?」
「アラ?もっと赤くなった。名前ちんは可愛いなー」
「うっさいばか」

 頑張って隠していたつもりだったのに、あっさり指摘されて、その瞬間一気に顔に熱がのぼるのを感じた。季節は秋だというのに、それを疑いたくなるくらい暑い。頭のなかがぐるぐるして、どうしたらいいんだろう、これ。季節の変わり目だし、風邪かな。保健室に行こうかな。

「ねーねー名前ちん」
「今度はなんなの」
「やっぱり名前ちんにおめでとうって言ってほしいなー、ダメ?」

 だめじゃないけど、全然だめじゃないしむしろおめでとうって言いたいけど。恥ずかしさが邪魔をしてうまく口にだせない。どうしたらいいんだろう、ただ祝うだけなのに、それだけなのにこんなに難しいものなのだろうか。

「名前ちんのケチ、もうまいう棒あげない」
「べっつにいいよ!私があげるし!」
「そうなの?」
「そうなの!」

 もはや自分が何を言っているかわからなくなってきた。多分熱があるんだと思う。さっさと保健室に行こう。それで、風邪薬もらって、ちょっと寝て、そしたらきっと治るはずだ。ていうか治ってくださいお願いします。

「誕生日おめでと、紫原くん!」

 リュックの容量の4分の3ぐらいを占めていたお菓子を勢いよく紫原くんの机におき、耐えられないから保健室に行こうと扉に歩を進めた。背を向けていても紫原くんが嬉しそうにしている姿を容易に想像できるし、「名前ちんは可愛いなー」とか言ってるんじゃないかと思うと本当に熱で頭がくらくらした。


( 夕日色 / 131009 )

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