不真面目代表、と言われてもおかしくはない程度には、よく保健室で授業をさぼっていた。授業は面倒だが、進級はしたいため、しっかり欠席日数をカウントしぎりぎりまでさぼるというただのクズである。わたしが保健室にくる理由をわかっているのに、保健室の主である竹中先生は笑顔で迎え入れてくれる。普通なら授業にでなさいと説教をくらうところだと思うのだが、今まで咎められたことなど一度もない。おやすみと言うとおやすみと返事をし、わたしが話しだすとお仕事をしながらもしっかり聞いてくれる。
 いつの間にか、さぼり目的ではなく、竹中先生に会いたくて保健室に通うようになった。授業中じゃなく、昼休みや放課後にも足を運ぶ。竹中先生のことが好きなのだと気づくのに時間はかからなかった。目が合うと心臓がとまりそうになるけれど、竹中先生の声が聞きたくて、毎日通ってしまうのだ。

「おや、今日もさぼりかい」
「たまには怒ってくれてもいいんだよ?」
「困るのは僕じゃあないからね」

 自分は困らないから怒る理由がない、ということか。たしかに、出席日数で困るのはわたしである。高校生なのだから、そこらへんの自己管理をきちんとできてなくてはならない。カーテンを閉めて、保健室のベッドのひとつを占領する。ひとが入ってきたのは、その後すぐだった。

「たーけなかせんせ!体調が悪いのでしばらく休ませてもらっていいですかー?」
「さぼりはよくないな。それと、今そこで本当に体調の悪い子が休んでいるから、静かにしたまえ」
「えー…じゃーお昼休みにまたきていいですかー?」
「先約があるんだ」
「ええっ、じゃあ!いつならあいてます?」
「ふふ、最低でもあと1年は、あかないだろうね。それじゃあ、僕も忙しいから、またね」

 女の子の努力むなしく、扉の閉まる音がする。あの子にはきちんと注意をするんだな、と思うと胸が痛くなった。けれど、竹中先生の最後の言葉を思いだす。わたしが卒業するのは1年後、もしかしてと僅かながら期待してしまう。竹中先生は、なにを考えているのだろう。疑問はあったものの、襲いくる眠気に抗うすべなく、目を閉じた。


「名前くん、名前くん」
「ふあ、竹中先生…授業終わりました?」
「ああ、終わったよ。もう昼だ。今日もここで食べるのだろう?」
「あ、はい!お弁当、とってきます!」

 いったん教室に戻ると、「また竹中先生のところ?」と友達がにやにやしながら話しかけてきた。友達はわたしの気持ちを、竹中先生をどう思っているかを全部知っている。だから隠すことなくそうだと伝え、お弁当をもって早足で保健室に戻る。只今留守にしていますという札を無視し、扉を開ける。

「おまたせしました!」
「いや、予想していたよりはやくて驚いたよ」

 たしかに、すこし急ぎすぎてしまったかもしれない。これだけしょっちゅう保健室にいるという時点であからさまなわけだが、わたしのわかりやすさには自分でも呆れる。わたしが好意をもっているなんて、竹中先生はきっと気づいているはずなのに、どうして追い返さないのだろう。生徒が好意をもっているとわかれば、普通あしらったり、冷たい態度をとったりするはずだ。許されることではないのだから。

「ねえ、竹中先生。さっきの子には、ちゃんと注意…してましたよね」
「聞いていたのかい」

 眠る前に考えていた疑問を口にすると、同時に胸の痛みが戻ってきた。こんなことを聞いても先生を困らせるだけだとわかっていたけれど、なぜか聞かずにはいられなかった。

「あの子が僕のせいで留年、もしくは退学になってしまっては困るだろう?」
「…え?それはわたしも同じじゃないんですか?」

 わたしの疑問に、竹中先生は微笑むだけだった。そんなふうに言われては、竹中先生のせいでわたしが留年か退学になっても困らないというふうにとれてしまい、妙な期待を抱いてしまう。でも、そんなはずはないのだ、ありえない。

「君なら、何度ここに来てくれて構わない。昼休みも、いつものベッドも、君のためにあけておくから」

 あんまりにも嬉しかったものだから、にやついていないか心配になり、急いで口元を隠す。先生はほんとうにずるいひとだ。そう言われてしまうと期待してしまって、後悔するのはわたしだけではない。女は怖いのだ、それを竹中先生は知っているだろうか。そうやって甘い言葉を吐くのだから、責任をとってくれるだろうか。いろいろ考えたけれど、どれも今の立場で口にだすのはよくない気がして、心に留めておく。一年後の卒業式、生徒でなくなってから、全部吐きだしてしまおう。関係を崩すのは、なにも今でなくてもよいのだから。


ほのめかされた恋慕 / 130311

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