わたしの兄、半兵衛は過保護をこえてシスコンなのだと思う。幼いころはこれがふつうだと思っていたのだが、よくよく周りの話を聞くと、ちがう。明らかにちがう。
 友達がお兄さんの話をしているとき、「えっ…」と思いながらも空気を読んで黙った覚えがある。うちの兄さんと明らかにちがうんですけど、なんでそんなそっけないの?そんな疑問を飲み込みつつ、ああうちもそんな感じなんて適当な言葉をつらねていた。

「おはよう、名前」
「おはよー…」
「朝ごはんはもうできているよ」
「ほー」

 そりゃまあ仕事がはやいことで。
 我が家は母が夜勤で、父は単身赴任中なのでほとんど兄さんと二人ですごす。端から見ればわたしの兄はどうやら評判がいいようだが、たぶんその評判はだいたい間違っていると思う。でもきっとシスコンだと言っても誰も信用しない。ていうか、言ったとしても逆に羨ましがられそうなのが怖いところだ。

「名前、リボンがまがっている」
「んー…。はー、自分でできるのに」
「僕が君を甘やかしたいだけだ」

 うわー。その言葉をどこか別の、たとえばクラスメイトの女の子に言ってほしい、お願いだから。妹としては、そういう…彼女ができました、みたいな色っぽい話がひとつもない兄を心配してしまう。…まあ、わたしも彼氏できました!なんてこと一度もないのだけど。

「お弁当、置いておくよ。忘れないようにね」
「はーい」

 朝食も、お弁当も、気づいたら兄さんが全部やっている。これじゃあお嫁にいけないなぁ、なんて先の話だけど!お弁当を自分でつくらなくていいぶん、朝に余裕ができるからそこらへんはありがたいと思う。でも、それぐらい自分でやりなさいと言ってもいいのに。…言わないのだろうけど。

「名前、」
「ん?なーにっ…うわわわ」

 突然後ろから抱きしめられてしまった。まったく、そういうことはさっさと彼女をつくって、彼女にしてあげればいいのに。妹にやるなんて間違ってる、と思う。そう言いつつ、拒絶できない自分がいるから矛盾している。…首に髪があたって、くすぐったい。

「いい加減妹離れしなよー?」
「…妹、か」
「……?」

 ぎゅうう、抱きしめるちからがすこし強くなる。兄さんはたまにおかしなところがある。わたしに向けているように見えてわたしに向かっていない言葉、わたしを見ているようで見てない目。よくわからないけど、そういうときはだいたい心がざわつく。このざわつきを、なんと言葉であらわしたらいいかわからないけれど。

「…よーしよーし」
「名前は僕をばかにしているのかい」
「どうしてそうなるの」
「…なんでもないよ」
「はぁ」

 ふわりと熱が離れるのを、なぜかさみしく感じた。ううん、よくわからないな。兄さんに毒されているのかもしれない。振り返って兄さんのほうを見ると、いつもと同じようににこりとわらった。


いと、こいし / 130224

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