彼の照れ隠し
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私の彼氏、笠松幸男は人前でイチャつくことを極端に嫌がる。

いや、人がいなくてもベタベタと接すると、嫌そうに眉間にシワを寄せ私を見る。

だけど絶対に私を振り払おうとはしない。

それどころか、まるで壊れ物を扱うかのように丁重に接してくる。

あれか、嫌よ嫌よも好きのうちってやつですか。


一度、どうして嫌な顔をするのに雑な扱いをしないのかと聞いたことがある。

そうしたら幸男くんは私とは真逆の方向を見ながらこう答えた。


「自分の彼女を雑に扱うやつがどこにいるんだよ…」


と。

小さく呟くように吐き出された言葉だったが、私の耳にはバッチリ聞こえた。

幸男くんの顔は見えなかったが、短髪な為に隠しきれていない耳が真っ赤になっていたことから照れているんだろう。

一向に私を見ようとしない幸男くんの腕にギュッと抱きつけば、笠松くんは「あんまりくっつくな」とぶっきらぼうに言った。

たったそれだけのことなのに、幸せに感じてしまう私は欲のない女だろうか。

だけど私だって見せつけたい時や、甘えたい時がある。


今だってそうだ。

街中はカップルや親子連れで溢れかえってい。

行き交うカップルは皆、腕を組んだり、肩を抱いたり、手を繋いだりしている。

なのに、私と幸男くんはただ平行に歩いているだけ。

それが不満で少し歩く速度を遅くして、幸男くんの数歩後ろを歩く。


私の歩く速度が落ちたことに気づいた幸男くんは立ち止まって振り返り、私を見た。


ほら、また。

私が拗ねると幸男くんは困った顔で小さく溜息を吐く。

私に呆れてしまったのだろうか、幸男くんが前を向き歩き始めた。

私の視界はだんだんと霞んでいき、幸男くんの後ろ姿がぼやけていった。

涙を流さないように歯を食いしばって目を見開いていれば、視界に入ったひらひらとした動きに気づいた。

服の袖で軽く目に溜まった涙を拭き、幸男くんを見る。

幸男くんは数メートル先で立ち止まり、いつもの私の定位置である左側の手をひらひらと軽く降っていた。

私はその場から駆け出し、その幸男くんの手を重ねるように取った。


「えへへ」

「…違ぇだろ」

「え?」


ただ重ねられていただけの手を解き、指を絡めるようにして手を握った幸男くんを見る。


「何だよ」


不機嫌そうにそう言うも、幸男くんの顔は真っ赤だった。


「ううん!何でもない」


私はそう言って、幸男くんと一緒に街中に溢れかえるカップルに馴染んでいった。


2012.11.25



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