いつの日かきっと…
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※pixivから持ってきた改良版です。藍ちゃんは本来ならシュークリームがおいしいと言っていたので味覚はありますが、この短編では味覚がないという設定になっています。それを踏まえてお読みになってください。
自分の中では彼女のことをどう思っているのか……。
今まで考えたことはなかった。
ただ単純に……僕が指導を与える後輩であって、それ以外何もない。
何もなかったはずなんだ。
「おっ、これうまいな!」
「本当ですか?」
昼過ぎ、僕の部屋でショウはナツキが買ってきたキャラクター型のクッキーを食べている。
「あぁ、お前も食ってみろよ」
ナツキは仕事でいないから今はその二人と僕しか部屋にいないんだけど…
ホント、いつも騒がしいよね。
僕はショウとハルカの会話を流しながらも、手に持っている役者の台本に目を通した。
「じゃあ、私も一枚もらいますね」
「ん、ほら……あーん」
……………………
……あーん?
僕はそのワードが気にかかって読んでいた台本から目を離して二人の様子を見ると、ショウがハルカの口に向かってクッキーを差し出しているのが見えた。
……な、
僕はその様子を見た瞬間、無意識に手に持っていた台本をバンッと大きな音を立てて机の上に置いていた。
一瞬にしてその場が静まりかえる。
そのせいでショウとハルカは目を見開いてこちらに視線を向けた。
……。
我ながら意味不明な行動を取ってしまった。
な、に…?どうなってるの……?
自分でもうまく理解ができない。
「あの……美風先輩?」
僕はハルカに声をかけられてハッと我に返った。
これは……きっと何処かおかしい。博士の所に行ってメンテナンスを受けた方がいいのかもしれない。
僕は心配そうにこちらを見てくる二人に素っ気なく「なんでもない」とだけ返した。
「ほ、本当に大丈夫なのかよ?……あ、お前も食うか?クッキー」
ひとまず、話が切り替わったことにホッとして僕はもう一度、机の上に置いた台本を手に取った。
「……いらない。っていうかショウ。カロリーオーバーしないでよ?」
「あーはいはい。………わかってるって」
可愛いげのねぇやつ。と言いながらショウは手に持っていたクッキーを自分の口に入れる。
「あ……ほら、春歌」
「あ、はい。ありがとうございます」
今度は普通にショウがハルカに手渡しでクッキーを差し出したので、ハルカはそれを受け取った。
その様子を見て、思わず僕は安堵のため息をつく。
そしてふと思った。
……安堵?なんで、僕は安堵なんかしてるの?
なんで……?
自分の異常さに戸惑いつつも、二人には悟られないように台本を読み続ける振りをする。
すると…
「ん、美味しいです!」
「だろ?まだあるから食っていいぜ?」
「ありがとうございます」
二人の会話がまた聞こえてきたので、台本から目を離して二人の様子を横目で見る。
そして僕は嬉しそうに………幸せそうにクッキーを頬張るハルカを自然とジッと見つめた。
…目が離せない。なんでかはわからないけど。
でも、あの顔を見ていて悪い気はしなかった。
そんなことを思っていると僕の視線に気がついたのか、ハルカと目が合ってしまった。
ーーー。
「……美風先輩も一枚食べてみませんか?」
「…………いらないって言ってるでしょ」
「でも、すごく美味しいんですよ?」
クッキーを一枚だけ持って僕の方に寄ってきたハルカに少し困惑。
美味しいと言っても、僕に味はわからない。
でも、笑顔で勧めてくるハルカを断ることもできなくて……。
「………一枚だけだからね」
そう言って僕はため息混じりに彼女の手からクッキーを取った。
そして僕はそのまま口に運んでクッキーを食べる。
「………どうですか?」
彼女の大きくてつぶらな瞳が僕を見つめてくる。
それだけで何故か異常なほど僕の体温が上がった気がした。
味なんてしない………。ただサクサクとした感触だけしかわからない。
でも、何故か美味しいと感じてしまうのはバグのせいなのだろうか。
「………おいしい」
自分の中では曖昧な状態だったけど、僕がおいしいと答えればハルカの顔は少しパッと明るくなった。
その顔を見て………僕の中のなにかが揺らいだ。
おいしいと言った言葉は別に嘘じゃない。
味はわからないけど、ハルカからもらったクッキーは……美味しい味がしたような気がしたから………………。
きっとこんな風に感じてしまうのは今、僕に笑顔を向けているキミのせいだと……
気づける日まで……きっとそう遠くはない。
End