本当の現実
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ハルカといる時間はとても落ち着く。
いままでこんなこと思ったこともなかったけど、心をもった今の僕は前よりもいろんなことを感じたり、表情を出したりすることができるようになっている。

…だんだん人に近づいてきていると無意識に感じていた。



…………本当は人になんてなれないのに。
僕はショウやナツキやハルカに受け入れられて、自分が成長しているのが分かってきて、うかれていたのかもしれない。




「あ、後輩ちゃん!」

「寿先輩、お仕事お疲れさまです」

事務所のロビーでハルカと打合せをしていたら嶺二が入ってきた。

「後輩ちゃんとアイアイは曲作り?」

「はい」

「いいなーアイアイ。僕も後輩ちゃんと組みたかったなぁ」

「これはシャイニング早乙女が
決めたことだから仕方ないでしょ」

と言いながらも内心、嶺二と組ませるわけないでしょ。
と思っている。

「ちぇー、じゃあ…いつか僕の曲も作ってよ」

「あ、はい。いいでs「だめ」」

「え?」

…ぁ………。

一瞬辺りがシーンと静まり返る。
それが僕が産み出したものだと気づくのに数秒かかった。
無意識に言った言葉を思い出して、僕は何か言わなければと口を開く。



「………そんな余裕、ないでしょ。そういうのは余裕ができたら言いなよ」

「あ……そ、そうですね。すみません」

落ち込んだように謝ったハルカに少し罪悪感を感じた。
実際、今のハルカは忙しい。仕事を抱えて今日だって一緒に曲作りをしているのだから、僕は間違ったことは言っていないと思う。

「……ふーん、そっか。じゃあ余裕ができたら頼もうかな?」

「………」

僕の顔を見ながら含みのある言い方をする嶺二。
……もしかして、嶺二もハルカのこと好きなの?

「ね?それならいいでしょ」

「でも、大分先になっちゃうと思いますよ?」

「僕はそれでも全然オッケーだよ。おじーちゃんになっても待っててあげるから」

「じゃあ、私はおばあちゃんになってますね」

と、冗談の会話で笑う嶺二とハルカ。

………。



僕は何も言えないまま、真顔で二人を見ていて思った。

………あぁ、そうだ。
嶺二もハルカも歳をとる。

じゃあ、僕は?


決まってるでしょ。
歳をとらない。

だって僕は…


ロボなんだから。

恋をするのは自由だ。ロボが恋をしたらいけないなんて誰が決めたの。
…なんて思ってきて、ハルカを好きになった。

でも、もしハルカと恋人同士になっても。
その先は?

ロボが彼女を幸せにできるの?
子供が欲しいといったら?


「美風先輩?」

僕が思い悩んでいるとハルカの声が聞こえてそちらへ視線を送ると心配そうに僕を見つめていた。

「大丈夫ですか?」

「アイアイさっき呼んで気づかなかったけど…どうかしたの?」

そうだったんだ。
全く気づかなかった。
僕は一言、ちょっと考え事してた。と言うとハルカと嶺二は納得してまた会話をし始めた。

今の短時間でずいぶんと現実を思い知ったような気がする。

いや、思い知ったというより思い出したに近い。

だってそうでしょ?
本当はわかってたことなのに僕は見ないふりをしていた。


「あ…それじゃあ、僕はこれからまた別の仕事があるから行くね」

「お仕事、頑張ってください!」

「ありがと、後輩ちゃん。後輩ちゃんもアイアイも作曲頑張ってねー。僕ちん楽しみにしてるから」

まったねー!と言いながら嶺二はロビーから出ていってしまった。

いつもながらに騒がしかった。

僕はふぅ…と一息つくと、ハルカがじっと僕を見てきた。

「あの、美風先輩」

「なに?」

「……本当に大丈夫ですか?」

「…?なんのこと言ってるのか分からないんだけど」

「なにか、思い詰めたような顔をしていたので……」

顔色を伺いながら聞いてきたハルカに僕は驚いた。

顔に出したりはしてないはず。
なのに鈍感な彼女になんでわかったのか……。

………ホント、恋愛には疎くてこういうことには敏感なんだから。


「僕の悩み。解決してくれる?」

「悩み事ですか?どんなことでしょう」

「内容は秘密。解決方法はハルカが僕の側にいればいいだけ」

「私が側に?」

「僕が仕事とメンテナンス意外で、いるときだけでいいから」


………この先、必ず別れるときがくる。
僕が消えるか、ハルカが消えるか。
それまではせめてハルカといる時間を共有したい。

そういう意味を込めてハルカに言うと、彼女は微笑みながら言った。

「わかりました。それじゃあ、美風先輩も私の側にいてください」

「…僕も?」

「はい!」

それって……キミが僕に側にいて欲しいって言ってる意味で間違いないよね。
嫌とは思ってないみたいだし……。

「一生側にいるって言ったらどうするの」

なんて冗談で言ったら

「それでも構いません」

と、 すぐに返ってきた。
これは嶺二のときと同じで冗談で返したのだろうか。
でも、今のハルカの言葉はどうしても冗談には聞き取れなかった。
それは自分がいいように聞き変えたのかもしれない。

「私も、これから先ずっと…美風先輩の側にいてもいいですか?」

なんて聞くから。
僕は真に受けて……

「こんな僕でいいなら。側にいてもいいよ」

と笑みをこぼしながら言うと、ハルカはよろしくお願いします。と言って無邪気に笑った。





End



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