意地、張り負け
使い慣れた合い鍵を鍵穴に差し込む。回せばカチリと気前いい音がした。
「おじゃま、しまーす」
なぜか、本当になぜか、恐る恐る部屋の奥に進む。そして裕行がいないのを確かめて安堵してしまう。
ソファーの上、背もたれにしっかり背中を預けるように、横向きに寝転ぶ。ひんやりとしたソファーが、熱すぎる自分の体温を少し、吸い取ってくれる気がした。来る途中で薬は飲んだし、寝よう。心配させたくない。なんていうんじゃなくて。弱ってる自分を見せたくないから。意識が眠りへと沈んでいく。
ガタガタと乱暴な音がして目が覚めた。ついでに苦笑。それでも、眠りから覚めたばかりの瞼はまだ持ち上がらない。
「奈々子?来てんのかよ?だったら電気ぐらい点けとけよな…って、なに?寝てんの?」
「起きて、りゅ」
「起きてりゅ、ね」
言葉になってない声を出しながら目を擦る。ぼんやりと見えてきた視界。サラリと髪を撫でられた気がした。
「襲うぞ、オイ」
「んーやー」
「さぁなー。天の邪鬼だからよー」
脇腹を撫でられて、これはヤバい。飛び起きた。時すでに遅し。
「奈々子、お前熱ある?なんかいつもよりあちー」
「多分気のせい。きっと気のせい」
「絶対違うね」
既に近かった裕行の顔が更に近づく。頭突きですか?!なんて問いたくなるぐらい、がっつりと額が重なった。
「やっぱあちーべ?」
「気の、せい…」
額はくっついたまんまのせいで、余計に熱いし、痛いし。何より痛いし。
「奈々子。熱あるよな?」
「……気のせいだと思えば治る」
「オラはできっけどオメーは無理」
べったりと乗っかってくる。重い苦しい。
「ひーろーゆーきー?病人を労るって気はないわけ?」
「気のせいなんだろ?」
悔しい。なんか悔しいぞ?ヤケになってきた。
「気のせいっだよ」
「ふーん…」
唇を舐められた。
「ひひひひっ裕行!風邪、風邪うつる!」
「気のせいっつった」
慌てて裕行の体を押せば、あっさりと離れていく。
「んで、どっちだよ。マジに熱あんの?部屋あちーだけ?」
「風邪ひいてます。熱あります」
「ったく。最初からそう言えよな」
なに?悔しいっていうより敗北感?それになにより理不尽なのはっ
「これでなんで裕行は風邪うつらないんだろ」
「やっぱ俺だし?」
間違ってる…。
fin
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