偶然の産物


全くの偶然。類い希な神様の気紛れ。どうしてこう街中で運がいいのか悪いのか、出会えてしまっているんだろう。

「難しい顔してどうした?」
「いや、紀章くんと私の行動範囲、行動圏?縄張り?について、ちょっとした思巡を」
「縄張りって、動物?」
「近いもの、ない?」
「確かに人間だって動物なんだけど」

でも人間が半径1メートルで縄張り持ってたら、三歩でも歩くたびに喧嘩騒動勃発よね。そんなことになったらお巡りさんだって仲裁に入るに入れないわね。未だに猫の縄張り争いにだって仲裁が入るのなんて、見たことないし。多分、他の動物にだってないはず。

「奈々子、戻ってこーい?」
「どこにも移動してないわよ」
「いや、頭ん中のこと」
「それは移動してないとはいえなくもないこともないわ」
「どっち?」

でも紀章と会うのは久しぶりになるのかしら。最後に会ったのは…一昨日だわ。…どう転んでも間違っても、久しぶりではない。

「奈々子、だから戻ってこいって」
「ああぁっ、はい!」
「俺今からワイワイと飲みなんだけど。来る?」
「それは、そんな簡単に私を誘っても平気なの?」

考える振りをして、さっさと携帯を取り出してる。メンバーは私も知ってるのか。なんだか容易に予想がついた。なんか、こう、手に取るように。掬うみたいに。ドジョウを掬いたくはない。寧ろ救ったほうがいい気がする。救う、ね。紀章のエロスっぷりを?や、そんなことしたら谷山紀章の存続に関わってきそうだ。そんな重大責務、私は負えない。

「奈々子?」
「すみません!生きてください!」
「は?」

今日は私絶好調だわ。

「奈々子、飲みなくなった」
「…へぇっ?」
「つーか、行かないことにした」
「…珍しい」

飲み会、なんていつも勇み喜んで、ブギウギと出かけていくのに。

「ん?や、奈々子に街中で会っちまったし?」
「私の責任ですか」
「いつもながらボーっとしてる奈々子を放っていったらよそ様に迷惑だろうしな」

勝ち誇った顔して。それならこっちだって。

「って私のせいにしちゃうぐらい、紀章は照れ屋だし?一緒にいたいなら素直に言えばいいのに」

ニヤリと笑い見れば、それ以上の笑顔。らしくないような、爽やかな笑顔。

「早く2人っきりになりたいっていう奈々子のリクエスト、聞いてやるよ」

紀章のセリフを噛み締める。どんどん中身が深まって……あれ?

「奈々子が好きでしょうがないからさー」

やらかした、私。



fin


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