夜散歩


手を引いて。どうかお願い。私を迷子にしないで、お願い。夢の夜道は真っ暗で。慣れない私は一人きり。ねぇ、白いあなたの手で導いて。



真っ暗な部屋で目が覚めた。時計を見ようにも、暗い部屋で見れるわけがない。携帯もどこに置いたか覚えていないし、早々に確認するのを諦める。喉を片手で押さえれば、思ったより冷えていた自分の手に驚く。それと同時にひどく喉が渇いていることにも気づいた。立ち上がり、床には物を散らしていないのをいいことに、電気を点けずに部屋を出る。台所にすんなりと辿り着き、冷蔵庫を開ければ、その明るさに目が眩んだ。水の入ったペットボトルを取り出し、さっさと扉を閉める。ゆっくりと一口飲み込めば、特に喉が渇いていたわけではなかったらしい。きっと、見た夢が、悪かった。忘れてしまおう。

「奈々子?」

優しい匂いに後ろから包まれた。大丈夫だろうと決めつけ、全体中を後ろに預ける。驚きつつ、予想していたのか、体が揺らぐことはなかった。

「起こした?」
「いーや?なんか喉渇いて起きただけよ」
「…そっか」

だから気にするなとばかりに、抱きしめられる腕にが力を増した。

「真?」
「んー?」
「……なに甘えてるの?」
「夜だし?」
「理由になってないでしょ」
「ダメ?」
「ダメ、じゃない」

うん、ダメじゃない。先に甘えたのは、私だし。しばらくそうして、思い立ったように体を離された。

「ペットボトル、まだ中身ある?」
「…ない。買いに、行こうか?」

嘘をついてみた。小さな嘘はすぐにバレたみたいだけど、真は騙される振りをしてくれた。

「んじゃ、夜の散歩でも?」
「うん。行こ」

手を絡めて、ぐいぐいと引っ張る。暗い部屋の中が、悪い夢を見たせいか怖かった。

「アンタね。そんな慌てなくてもコンビニは逃げないっつの」
「わかんないよ?逃げるかもしんない」
「そりゃ大変だ」

苦笑しながらも早足になった真が隣に並ぶ。繋いだ手があったかくて、優しい光に溢れてるみたいで、街灯だけでは心許ない夜道の中で白く感じた。

夢の続きみたいだ。

「あ、それと奈々子。お菓子は買っちゃダメだからね」
「え?!なんで?!」
「太らないからって夜中に全部食べちまうから」
「あ、う…はい」

今日ぐらいは、我慢してあげるよ。優しい真が、甘いから。



fin


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