今この時が


「ただぁいま」
「おかえりなさい」

合い鍵を使って入りこんだ家の主は不在で、いつ帰ってくるかな?と時計を眺めたところ、実にタイミングよく帰ってきた。鍵の音を聞きつけて玄関。外から家の明かりが見えたのか、先に言われてしまって、少し頬を膨らます。

「そんな可愛い顔しないで。飴あげるから機嫌治して。な?」

笑顔で髪をクシャリと撫でられた。飴よりも、

「それとも、飴より俺の体温のほうがいい?」

言いたかったことを先回りされたけど、声が甘くて素直に頷く。

「奈々子のことだから飴も欲しいだろ?あ、その前にこっち」

真守の腕に腰掛けるような体制で軽々と抱き上げられた。お姫様抱っこ、ではないけど、近くにいるようで、好き。

「奈々子が近くにいないと淋しいじゃん?」
「…飴は?」
「ホントにいる?っても金平糖よ?」
「いる。ちょーだい?」

肩に手を置いて、顔を見下ろしたまま首を傾げる。ね?と、同意を求めた。

「どっからそんなやり方覚えてくんの?俺のお姫様は」
「真守だって人のこと言えないよ?」
「そうかもね」

額をくっつけ合ってクスクスと輪唱。思い出したように真守がリビングへ移動する。

「力持ちだね、真守は」
「奈々子は風船みたいだよ」
「水風船?」
「うん。針みたいに少しでも虐めたら、水溢れちゃいそ」
「じゃあ、いっつも砂糖みたいに甘ぁくしてよ」
「いつもみたいに?」

二人して、また顔を寄せ合って笑う。そうしてる間に、フローリングに胡座。そんな真守の上、背中を預けるように私も座る。あったかい。

「あ、金平糖忘れてる。いる?」
「うん」
「食べさせましょうか?」

口を開けたら、後ろから伸びてきた手がピンク色の粒を摘んでた。自分からそれをもらって、お返しに真守の指も唇で挟む。

「あらら?いけない子だねー、奈々子ちゃん」
「真守には言われたくありませーん」

体を方向転換させて、正面から抱き付く。いけない、なんて言ってる割に、真守の顔は締まりがないほど笑顔だし。それでいいんだけど。

「美味しい?」
「甘い」
「もっといる?」
「真守が食べさせてくれるなら食べる」
「それはもちろん」

なんか俺、餌付けしてるみたいな。なんて言うから。餌付けされてあげてるの。て、返してみた。どっちでもいいんだけどな。なんて言うから。どうでもいいんだけどね。て、返してみた。
今あなたと二人なら。



fin


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