貴女の願い叶えます


「なにをしたらいいですか?」
「ふへ?」

微笑された。間抜けな返しも、いきなり変な質問をされては仕方ない。しかも、ご飯を食べてる最中に。

「いえ、昼に言われたんですよ」
「なんて?」

伸びてきた手が口端をクイと拭って戻っていく。

「お前は尽くしてる様で迷惑をかけてそうだな、と」
「ありがと。迷惑?かかってないよ?」
「まぁ、それが先の質問の意です」

智和が指を舐める。流してしまったけど、サラリと恥ずかしいことをされたよね。

「ごちそうさま。奈々子さん、美味しかったです。で、なにかないですか?」

なにがどうあっても、なにか言うまでは納得しなさそう。

「ごちそうさま。じゃあ……甘やかしてよ」
「はい。こっちに来てもらえますか?」
「うん」
「体の力抜いてください」

前に立って、言われた通りに。なにをする気だろう?動かないでくださいね、と言われて、ただ立つだけ。途端、体を浮遊感が襲った。持ち上げられて、膝の上に向き合うように座らせられたと気付くのに数秒かかった。

「奈々子さん、好きです」
「智、和っ」
「好きです。大好きです」
「わ、わかったからっ、」
「大声で言って歩いても構わないぐらい大好きです」

恥ずかしくて、首に回した腕の力を少し強めて、しがみついた。これなら顔を見られない。

「愛してます。奈々子さん」

しがみついているせいで、声が余計に耳元で聞こえてしまう。体が智和の声にいちいち反応する。

「言葉だけで足りないなら、俺を全部あげますから」

きつく、腕は首に回したまま。真っ赤な顔を見られないで済むように。

「奈々子さん、…痛いです」
「男は我慢」
「…はい」

苦笑の声につられて、顔を引いてしまった。ほんの数秒、凝視され、実にあっさりとしたキスもされ、さらにしっかり抱きしめられた。

「俺以外にそんな顔見せないでくださいね」
「なっ?!」

首筋に智和が顔を埋めてくる。吐息が直接響いてくる。浸みてくる。

「これじゃあ甘やかしてることにならないですね」

甘やかされてるけど、やり方に多少の誤作動が目立つのでは?なんて突っ込みを入れることもできない。

「貴女を好き過ぎて愛し過ぎてるんです。これ以上、俺を奈々子さんの虜にしてどうするんですか」

歯の浮くような台詞ですら、私を麻痺させる甘い毒だよ。



fin


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