好きな言葉
息を継ぐ暇もないぐらい。息をしているのかさえ判らなくなるくらい。溺れて、溺れて、貴方しか見えない。
なんて、女々しいことは言わない。ただ、目に映る全てが罠のようで。目が合えば、それは凶器で。
「なぁ、なに考えてんの?こんな時に」
スルリと服の下から入ってきた手が脇腹を撫でていく。くすぐったくて身を捻れば、もう片方の手が服を捲くり上げた。空気が冷たいのに、触られてるだけで、躯はこんなに熱い。
「紀章のっ…ことだよ…んっ」
鎖骨から喉、顎へと撫でられて息を詰める。さらりと唇を掠めていく指が、卑怯。
「俺のこと?」
「そう…だよっ」
「ほんとに?」
身じろぐ度に香る匂いと、躯を好き勝手に触っていく指に、全ての感覚が持っていかれそう。それをわかっているはずなのに、聞き返してくる。ただただ唇を指で触っているだけ。じれったくて、自分から唇を重ねた。首に腕を回せば、背中に腕が回された。
「……んっ、ふっ…もっ」
自分から仕掛けたキスも、気付けばしっかり相手のペースになっている。相手のようにうまく息を継げないのに。限界を告げれば唇が離れる。離れる瞬間、唇を舐めていく。
「奈々子、もっと俺のことだけ考えてろよ」
「これ以上どうやぁっ…!」
首筋を舐められて、声が裏返る。一気に高まった呼吸を戻そうとしも、首筋を滑り落ちていく唇がそれを許さない。ふとしたタイミングで起こる、微かな痛みで簡単にリズムを狂わされる。
「どうやって?それは、こうやって」
「紀、章っ…」
胸の中心ギリギリを舐められる。首に回していた腕は、無意識の間に背中に回し、しっかりと紀章の服を握り締めていた。
「紀章っ…やぁっ」
「キス、したい?」
必死に首を縦に振る。ニヤリと笑う目が、しっかりとした光を伴って突き刺さってくる。凶器だ。
「キスする?」
言葉にしないと納得しないのか、と口を開けば、
「したっ…んんっ……」
噛み付くような深いキスに、隅から隅まで食べられそう。
「奈々子、愛してる」
「私、も…好きだよ」
「もっと言えよ」
「好き。紀章が好き」
「足りない」
再び自分からキスを仕掛ける。唇が離れる瞬間、クチュリと湿った音がした。
「大好き。紀章が大好きで…愛してるよ」
「いいな、それ。すっげーくる」
夜はまだ長い。貴方と二人きりの世界は続く。きっと私も目の前で笑う紀章と同じ顔。
fin
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