もっと更になおさら
知れば知るほど、わからない。そこまで深く知ろうとする努力をしたいわけではないのだけど。ただ、難解不読すぎるのも嫌だし。それにここ数日の嫌になるぐらいのご機嫌雰囲気はなんなんだろう。
「ねーねー。嫌い、って言ってみてよ」
まただ。眉を寄せ、露骨に嫌な顔をして、口にしてやる。
「大嫌い」
「彼氏に対して?」
「彼氏に対して」
「ひどくなーい?」
「ひどくない。…ごちそうさま」
律義に手を合わせて。いや、作ってもらったからには、ね。嫌いと言ってやった相手は「おそまつさま。」と言いつつ笑ってる。なんでそんなに余裕なんだろう。
「ね、好きって言って」
「…嫌い」
また、笑ってる。まだ、らってる。
「食器洗うから置いといていいよ」
「それぐらい私やる」
「奈々子が?今日の朝、コップ洗おうとして割った奈々子が?」
「やっぱりやらない」
あっちでゆっくりしてなよ。そうやって、放り出された。仕方ないからソファーに座ると紅茶の注がれたカップが渡された。
「俺ってばサービス精神旺盛〜」
「…ばか」
「かもね」
は?と口に出しかけた声を自分の手で口を押さえて飲み込んだ。
「ん?どしたの?」
「…なんでもない」
「ふーん…ほんとに?」
「なに笑ってんの?最近、ニコニコにこにこ」
「や、最近気付いたことがあってさぁ」
なんだか、その笑顔が胡散臭い。ん?違うな。いやらしい?うん、きっとこっちだ。
「聞きたい?」
「言いたいなら言えば?」
流し台に消えていく姿。なんだ。自分から話を振ったくせに。
ずず、と両手で持ったカップから紅茶を啜る。甘い。甘い紅茶は好きじゃないはずなのに。なんでだろう。これ、好き。何回目になるかわからないけど、今にも鼻歌を歌いそうな程ご機嫌な浩輔をチラ見。それから紅茶を啜っては、なんとなしに見てしまう。
「俺が機嫌いい理由はねぇ」
不意に話し掛けられて、意味もなくびっくりしてしまう。
「奈々子?聞いてる?」
「聞いてる」
「理由は、それ」
「どれ?」
「あら即答。てことはやっぱ無自覚?」
なにが言いたいんだろう。甘い紅茶が美味しい。嫌い。
「奈々子?ねぇ。俺に構ってもらいたいでしょ?」
ケホ。むせた。
「チラチラ見てきて、物欲しそうな顔してる。それにさ、」
「甘い紅茶、好きになるのは俺が、作ったからでしょ?」
思い当たってしまって、ごまかしたくて、小さな声で「ばか」と呟いた。
fin
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