甘やかす甘え


女だから、なんて言葉に縛られたくないわけではなくて。大した意識をしてるわけでもなくて。これが中々。女のコなわけだし、やっぱり甘やかして欲しいなんて思う。だからこそ、他の女のコも甘やかしてもらうのが好きなんだろうなー、なんて考えるわけで。考えてしまうからこその行動なわけで。
ふ、と横を見たら今まさにプルタブを開けようとしている斉藤梨絵ちゃんがいて。条件反射。

「開けるよ?」
「え?」

なんて間に代わりに開けてみたり。

「ありがとう」
「気にしないでいいよ」

当たり前のようにしてしまうんだし。ふと、裕行と視線が合う。笑いかけてみたり。って、目逸らされたり?!なんでだろう、なにかしたかな?怒らせた?なんて間に、皆さんご帰宅時間。テポテポ一人帰り道。フラフラ前から酔っ払い。

「あららー、お姉ちゃん一人ぼっちなの?」

明らかに、おじさん。おじ様と呼べるような品はなく。すみません。おっさんでもいいですか?なんてどうでもいいことを考えてたら、酒臭いものが近づいてきてた。無視して通り過ぎようにも、この距離なら無理。

それなら、

踵を返した。体の向きを180度変換。進行方向間逆行き。なのに、なんで、酔っ払い!!こんな機敏に動けるなんて反則!がっつりしっかり掴まれた腕。思わずまたまた振り返る。顔近っ!息臭っ!そしてビールっ腹!しかしけれどそれでも、ココには私ひとりなわけ。

「離してください」

きっぱり言い渡す。

「お姉ちゃん、そんなツンツンしてたらおじさんみたいないい男寄ってこないよぉ?」


申し訳ない。気持ち悪いので寄ってこない方向で全然構いません。寧ろ構わないでください。

「いいです。だからさっさと離してください」
「ぁんだってぇ?」

おっさんの片手が振り上げられる。ヤバっ!とっさに目を瞑って、その瞬間に両肩を強く後ろに引かれておっさんの手が自分の腕から外れる。 肩からも誰かの手が外れる。

「さっさと行けよ、おっさん」

顔の幾分青ざめたおっさんがいなくなって、後ろからゆっくり伸びてきた腕が改めて私を引き寄せる。

「裕、行?」

確信がなくて戸惑い気味に名前を呼ぶと、ため息と共に私の肩に顔をうずめるように更に抱きしめられる。

「奈々子。もっと俺を頼れよ」
「頼ってるじゃん」
「足りない」
「好きだよ」
「足りな…っ!?」
「足りないなら、愛してるから」

だぁー!と奇声を発して、裕行がしゃがみ込んだ。



fin


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