噂にもならない噂話


我慢して我慢して。我慢した結果、チラリと盗み見てみた。斜めに離れた所に座る人。すぐに正面に座る人に視線を戻して、話の続き。しばらく我慢して。また我慢して。それでもやっぱり、また盗み見て。またっもやすぐに視線を戻せば、正面の人が苦笑中。

「な、なんですか?」
「奈々子ちゃん。正直すぎ」
「え?もしかしてバレバレですか?!」
「うん。バレバレ」
「うー……健児さん、もっと早く言ってくださいよ。恥ずかしいじゃないですか」
「そう?お互い様じゃない?」
「え?どういうことですか?…はっ!もしかして健児さん、私のこと
「違うから」
「即否定?!それはそれでなんだか物悲しいといいますか」

他の人に聞かれないように、お互い小声で喋っていたら、いつの間にか顔を近づけていた。双方して身、乗り出してるしね。この話題にどんだけ食いついた?

「話おかしくなってきたけど、お互い様って言ったのは、奈々子ちゃんと、あっちのこと」
「え?」
「お互いがお互いを好きなのが、バレバレ」
「へ?…………え?」
「ねー、谷山君」
「まったくですね。暑苦しい」
「谷山さんヒドっ!恋する乙女に向かってその暴言、ヒドっ!」

だってねー、なんて言い合ってる健児さんと谷山さんから、またも視線を外して、斜め向こうを見る。……………視線、合ったんですけど。

「あーあ、旦那さん怒ってるんじゃない?」
「怒ってるっぽいよね」
「谷山さん…旦那を持った覚え、私にはまだないです。希望はありますが。そして健児さん。その部分のフォローを混ぜ込んだ発言してください」

斜め向こう、周囲の人に片手を立てて席を立つ姿。それを目で追えば、お店を出ていってしまう。でも、荷物は置いたまま、ってことは帰ったんじゃないよね。

「奈々子ちゃん待ってるんじゃない?」
「どっからその予想を立てますか?」
「旦那さん一人にしていいの?」
「まだそのネタ引っ張りますか?」

ジーっと、や、ジットリと見つめてくる二人分の視線。分かりました。分かりましたったら分かりました。行けばいいんですよね!勢いよく立ち上がって、店の外に。出た瞬間、横に引っ張られた。

「奈々子ちゃん。野島さんと谷山くんと、なに話してたの?」
「えっと、ですね。その、保村さんのことを少々」
「あ、保村さんのことをね…って俺じゃんかっ!」
「ノリ突っ込みで返されても」

引っ張られたのは入り口前だと邪魔になるからだけの理由。開き直って、保村さんを直視する私。言葉を繋ごうと、しどろもどろで俯いてる保村さん。相手の方がなんだか乙女だ。

「俺の、なに、話してたの?」
「私が保村さんを、保村さんが私を好きなことがバレバレらしいですよ」

あ、固まった。

「中戻っても、このこと否定しなくていいですか?」

やっと返ってくる、蚊の鳴くような、相手の小さな声。

「今度、ちゃんと告り直すから」

はい、楽しみにしてます。



fin


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