確かめる意味もない
本当はそんなことないのに、嘘をついた。周りの友達にも、同罪を背負わせて。
「え?」
友達の口から伝えられた言葉に、息を詰まらせた。私はただただ、知らない男の人に警戒してる振りをして、貴方がどう切り出すかを待つ。
「マジ?」
「あ、の……すみません」
色々な気持ちを詰め込んで謝る。そう───ごめんなさい。
「マジ…なんだ…」
「あの!鳥海、さん」
んー?と弱々しく笑うから、余計に胸が痛い。今すぐ嘘だよ、と抱き付きたいけど、動き出してしまいそうになる体を必死の思いで踏みとどまらせる。
「あの、私と鳥海さんって、その…」
次の答えを知りたい。不安になった私の疑問。都合よく出会った衝突事故。本当は膝を擦り向いただけ。
友達が私を不安そうに見る中、浩輔が口を開いた。
「うん、友達。あ、コイビト…のがよかった?」
こんないい男だし。向けられた軽口に笑いながら、体の芯がすうっと冷えていく感覚。
「ま、なんにせよ全部忘れた訳じゃないんでしょ?良かったんじゃない?奈々子ちゃん」
「そう…ですよね!」
仕事、と言って帰っていく背中を眺める。あーあ、友達にまでいらない気遣いさせちゃった。泣きたくなるのを堪えて、友達に謝る。入院の必要もなく、一人、家路に着いた。
あと家まで25メートル未満。ちょっと向こうに見えてます。でも、でも。
「コーンバンワー」
「………」
笑ってない目、笑ってる口、笑えない声のトーン、笑える口調。全てが突き刺さるほど、私を捕らえる。
「え…っと」
「鳥海です…って、必要ないでしょ?」
病院で会ってますもんね、と言おうとした。直ぐにその言葉を飲み込む羽目になる。
「そんなに俺とのこと、なかったことにしたい?」
あぁ、と小さく声が漏れる。自然と足が後退する。目だけはどうもがいても逸らせない。
「忘れた振りして、それだけで俺から離れられるとでも?」
一歩一歩、確かめるような足取りで近づいてくる。すくんでしまった私の足は地面に張り付いたように動かない。さらり、と近づいてきた手が髪を伝って頬を撫でる。指先は微かに震えてる。
「ねぇ、奈々子ちゃん」
息を、飲む。
「易々と離れられるとか思うなよ」
最初から確かめる必要もなかったんだと、思い知らされる。恋人であることは、ゼッタイ。
fin
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