閉じ込めて、溢れて


目で追って。目が合えば逸らして。気にしてくださいと言ってる。

「篠崎、楽しい?」

飲み会の席、そう言われて、嫌な予感に心臓が跳ねる。慌てて笑顔を繕う。いつから私はこの人の前で笑ってないんだろう?心の中では泣いてるんだろう?会話をすることさえ息苦しいんだろう?

「楽しいですよ。吉野さんこそ楽しんでますか?」

声は震えてない大丈夫。
気づかれてない大丈夫。

「楽しい…ね。マジで言ってんの?」
「なに言ってるんですか。楽しくなかったら笑えないですよ?」
「…あっそ」

短い沈黙の後、背を向けて反対側へ移ってく。それを目で追って、あの人と目が合って、視線を自分の足元に戻す。あの人が近づいてきて一言。

「早く諦めてくれない?ウザイから」
「わかって、ます。今日で……最後ですから。ご心配なく」

自分で言った言葉に、胸が痛んだ。今日で最後。そう…最後。あの人が移動していく先。

「裕行さん、お話しましょうよ」

耳を塞いで叫びたい衝動に駆られても、この気持ちは失くさないと。忘れないと。吉野さんは……あの人の、モノ…だから。私が横から入れるわけないんだから。耳を塞いで、心を閉ざして、涙を隠すの。

「あ?悪ぃ、アンタと話す気ないから」
「な?!なに言ってんのよ!私の彼氏でしょう?!」
「は?なに言っちゃってんの?」

……え?恐る恐る視線を動かす。あぁ、なんでこんなにタイミングが悪いんだろう。またあの人と目が合って、咄嗟に横にずらしても遅かった。

「なに見てんのよ!」

この場に居る人の目が全部こっちを見た。動揺に突き動かされる。逃げだしても、いいの?でも、それは、嘘を…吐かないと。

「あの、先輩…みたいな素敵な彼女がいて、そんなこと言う吉野さんが、…贅沢だなって。すいません」

吉野さんがより難しい顔になった。逆にあの人は少し落ち着いたみたいだった。

「そうよね。ね、裕行さん。篠崎さんもそう言ってるんだし」
「信じらんねぇ」

言い終わるかどうかで動いた吉野さんに腕を掴まれて立たされる。

「来いよ。じゃあ、お騒がせしてすみませんが、帰ります」

あっという間に吉野さんは私の荷物も持つと、店を出る。引っ張られたままの私はなにがどうなったのかもわからない。

「なぁ、俺ってあいつと付き合ってんの?」
「だって、あの人が」
「俺が付き合いたいのはお前なのに?」

付き合って、ないの?吉野さんが、私を?

「奈々子、お前の気持ちは?」

名前を呼ばれた。気持ちを聞かれた。真っ直ぐで。反らせない。

「私、吉野さんが…好き。大好きっ」

私の流した涙を掬う手は暖かくて、良かった、と安堵してる吉野さんが愛しいと思った。



fin


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