決意表明


ズルズルずるずる引きずって、いつまでも別れを切り出せない。二人の距離が離れていってるのに気づいてるくせに、それでも目を逸らして、耳を塞いで、嫌だと頭を振って、それでも頭のどこか片隅でもういいんだよ、と。頑張らないで手を離していいんだよ。と囁きかけられる。それでもいいのかもしれない。それがいいのかもしれない。
携帯電話を手繰り寄せて、電話帳を出し番号検索で0番を呼び出す。1コール、2コー

『もしもし?』
「もし、もし…成一?今、時間いい?」
『全然平気。どったの?珍しいな、電話なんて』
「そう、かな?」
『そうだって。どうした?今からそっち行こうか?』
「ううん…話したいことがあるだけ。聞いて、くれる?」
『もちろん』

聞こえてくる声は少し弾んで聞こえて、電話って優しい。嬉しそうな成一の声が、いくら、幻聴でも。いくら、思い違いでも。確かに電話をしたのは久しぶりかも知れない。今は夜中12時。いつもなら、時間を気にしてかけない。仕事で疲れて帰ってきてるんじゃないか、とか、打ち上げがあって、とか、色々な考えが巡り回ってる時間。

「そうだ、今日も仕事だった?お疲れさま」
『疲れなんか吹っ飛んだ』
「そんなにいい事があったの?」
『あぁー、ま、まぁ。現在進行形というか…』
「なぁに?」
『なんでもない。で、話って?』

息を吸う。息を止めて、一拍置いて吐き出す。

「あのね、」
『うん』
「別れよう」

たっぷり過ぎる沈黙。名前を呼ぼうとして、

『なんで?つか、なに言ってんの?』

言わないと。声が、足が、手が、震えるけど。言わないと。成一がかわいそう。

「私とさ、休み合わすの疲れてるでしょう?無理、してるでしょう?」

電話の向こうでは沈黙。

「成一にそんな無理させてるのに、私はなにもできない。それは…」
『……それは、の続きは?』
「それは…不公平だもの。そんなのは長くは…続かないんだよ」

そう。長く続くわけないんだよ。どっかで軋んで、傾いて、崩壊。欠落。暴落。無理だよ。

「無理して、疲れて、仕事して、私だったら無理だよ」
『俺は奈々子じゃない』
「大丈夫って言い切れる?」
『それは…』
「そこで無理しないで。ね?だから別れよう?」
『決めるな』

低い、低い声が聞こえる。

『俺はそんなにお前に気を使わせてた?だから奈々子、電話してこなかった?』

今度はこっちが沈黙。

『俺は、って俺は俺は言いすぎだけど、奈々子が大事だよ。絶対、何よりも』
「だって…」
『今から行く』
「でも」
『だっても、でもも聞きたくない』

じゃあ何を言えと?

『なぁ奈々子。愛してる。そんな不安なら、結婚しよ』
「え?」
『とりあえず今から行く。会いたくなった』
「わ、わかった…」

電話を切ってしゃがみ込む。思わず口を押さえる。だって、そんな返事は予想外。



fin


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