羊の皮を被った狼
女の子並に可愛くて、ひょっとしたら、そんじょそこらの女の子より可愛いかもしれない。肌なんかも綺麗だし。ぼんやりと眺めてみても、当の本人はどこ吹く風。ただ単に気付いてないだけだろうけど。今さっき繋かってきた電話に実に楽しそうに対応中。確かにその笑顔は可愛いし。
「元気?」
小さな声で呟くように呼んでみる。ま、こんな声じゃ気付かないでしょ
「あ。じゃあまた今度ね。…うん。じゃ」
へ?
「奈々子ちゃん、お待たせ。」
「う、うん?」
名前呼んだのに気付いたわけではないのかな?
「奈々子ちゃん?ぼーっとしてるよ?今名前呼んだのも、もしかしたら無意識だったりする?」
「気付いた?」
「奈々子ちゃんに呼ばれて気付かないほうがおかしいよ」
「元気好き」
ありがとうと顔を赤らめて言う恋人は、まだスキという単語に照れて反応するらしい。思わず初々しいなー、と眺めてしまう。そうこうしていたら、気持ちを切り替えた、というより、なにかを決意したように、キッとこっちを見てきた。さっきまでの可愛いとは違う顔。そのギャップにドキドキさせられる。
「奈々子、こっち来て」
と言われても横に座っているわけだから、これ以上近づくにはどうしたものか。戸惑っていたら、そっか。と片足を座っているソファーに持ち上げ、元気が横を向いた。丁度いい。膝立ちで元気に限界まで近づいて、同じ体勢を取ってみる。
「捕まえた」
抱きしめられながら照れ臭そうに言われて、油断してた。
「このまま離したくないんだ」
嫌な予感が背筋を走る。なんかすでに離してほしいような。
「奈々子が好きだよ。この腕の中に閉じ込めて」
これは聞いてる方が恥ずかしいのであって!もしや、と顔を仰げば、顔色変えず余裕の表情。前フリに騙されたっ…。
「このまま誰にも見せないで僕だけのものにしたいんだ」
耳元でしゃべらないで下さいっ!首に触れる髪が耳に響く声が頬に掠る息が、全てが体を擽る。
「奈々子ちゃん?ドキドキした?」
当たり前、とも遊ばれた、とも言いたいけど言うことも恥ずかしくて、声がでてこない。
「でも割と本気だよ?」
え?固まる。私が固まったのを満足気に見て元気は紅茶でも飲もかな、とキッチンに向かって行った。いなくなってヘナヘナと体から力が抜ける。もう絶対騙されてやるもんか!
fin
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