狡いぐらい


それなりにね、心は広いよ。でも限界っていうのもあるわけで。第一、人間なんだから独占欲とか嫉妬心もあるし。そういうわけだからさ、



酒の力は凄いもの。目の前でぐでんぐでんのべろんべろんになってる人は、ものごっつ珍しいことに彼女自慢なんてしちゃってる。普段なら絶対しないのに。その隣には既に意識を手放したのが二人。俺の右隣で前にいる人物の惚気を延々と聞いている振りだけしてうんうん言ってる広樹さん。これも落ちるのは時間の問題かなぁ。って、目の前の人!話ながら更に酒煽ろうとしないでよ!もうわけが分からない。
そんな俺の左隣りはイジメかのようにナチュラルに一人分のスペース。その横の横でほとんど呑んでない方。今日のみんなのお世話係りはこの人と俺だな。それから俺の方に少し戻ったところに、

「みんな良く呑みますねー」
「ああ。奈々子ちゃんもだけどな」
「それはそうですね。ふふっ」

さっきから二人はこの調子。俺はさっきから一言も発してない。自棄酒でも、とは思っても皆を心配してしまうヘタレな自分。
あーもうだからっ!


「奈々子!もう少しこっちに座ってよ!」

そんな大きな声で叫ばなかった言葉は、自分の中で存分に響いた。嫉妬心丸出しです。はい。
でもそれを聞いたリーダーは苦笑を漏らして解散を告げた。辛うじて意識はある二人を無理矢理帰らせる。無事に帰ってくれればいいけど。寝入っている二人は任せておけと言うので奈々子だけを連れて店をでた。

「ふふっ」

あまりにも綺麗に奈々子が笑うから、一瞬目を奪われた。

「なに?」

それでも口調だけは意地を張って。

「まだ、怒ってる?」

斜め後ろを歩かれていても、首を微かに傾げた動作がわかる。

「なにに?」

また、笑う。
俺は諦めて溜息を一つ

「あんまり俺以外の男にくっつかないでよ」

ましてリーダーなんて俺に勝ち目ないじゃん。いや、誰にも勝ち目なんてないかもしれないけど。

「だって、こうでもならないと真くん我が儘言ってくれないから」

そうしてまた物知り顔で笑う。確かに、と思ってしまえる俺はなんとも情けない彼氏のようです。

「でもね、それが真っぽくて、私は大好きなの」

それを聞いて納得。だからこういう日はいつもより機嫌がいいんだ。だからいつもより綺麗に笑うんだ。
愛されてる、と分かったら顔が熱くなった。

どうやったらこの気持ちを君に返せるかな?



fin


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