先手必笑方


クスクス、笑い声が聞こえてベットから起き上がる。横にいるはずの奈々子の姿が見当たらない…。部屋の様子を見渡して、そっかここは奈々子の家か。綺麗に片付いてるわけだ。クスクス声はまだ止まってない。原因を突き止めようとベットから下りる。ドア付近に落ちているシャツを探して、見つからないことに首を傾げる。ここで脱いだんじゃなかったっけか?ま、ズボンは穿いてるし問題ないか。
笑い声が聞こえる場所、台所に到達して、自分はまだ夢の中か、と目を擦る。擦る。擦る。そんな俺に気付いた奈々子が満面の笑顔でお出迎え。

「おはよう、真。なにか食べるでしょ?」

はい、いますぐ奈々子を!だってさぁあ!着てる上着が俺のシャツってどうよ?!下、は穿いてるのか。残念。いや、残念じゃねーよ!や、残念か。

「奈々子さん、下のズボンを脱いでみるのはいかがでしょうか?」
「…ふーん」

へ?え?おわっ!スルスル、足が、生足が生足っ!そして男物のシャツって!男のロマン?!でも、嬉しいけど、

「なぁに、その微妙な反応。嬉しくないの?」
「や、そんなことないけど、」
「けど?」

無防備に近づいてこないでくださいっ!そうだ、話題を変えれば!

「そっ、いえばさ、何笑ってたのさ、奈々子」
「こーれっ」

可愛く首を傾げて差し出された携帯。何かボタンを弄って、聞こえたのは、

「俺の声じゃん!え?な、なんで?」

しかもマジ素の声?

「実はムービーだったりする」
「うわっ、うわ!奈々子ちゃん、消して!ショーキョ!」

そういえばこの間こんなやり取りしてた。

「消さないよーだ。携帯を真一色にするんだから」

なに、この子、そんなこと言ってそんなカッコして、男としてこれは抱きしめないわけにはいかないでしょーよ!

「奈々子!」

抱きしめた、つもりだった。逆に抱き付かれて、さらには、

「?!んー!」

キスってなに?俺がされる側?なんか違くね?あってる?なになに?そこまでパニクって、唇が離れた。最後に、と猫みたいに舐められた。って、えぇー?!

「先手必勝。ってね。驚いた?」
「食ベテモイイデスカ?」
「だーめ」

そんな笑顔でお預けかよっ!

「じゃあズボンでも穿いて下さい」
「あ、忘れてたや。ありがとう、真」

そして俺はいつまで上半身裸でいればいいの?ご飯の支度の続きを始めた奈々子にはこの気持ちは届かなかった。



fin


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