二人世界の幸福論


深く座り直してはズルズルと滑り落ちる。だって、だって、暇すぎる。今にもソファーから落ちるギリギリを保ち、天井を見上げた。他人から見れば間抜けなことこの上ないな。急に視界から天井が消えて、

「うわあっ!?」
「驚いた?」

顔が逆に重なり合うようにして覗かれた。誰であっても驚くから!

「当たり前じゃん!」
「へへっ」

あーそんな顔さえ可愛いなぁ、もう。

「んで、どうした?」
「デートしよっ」
「はいはい。行きたいとこは?」

ソファーから立ち上がって、財布をケツポケットに。奈々子がくるのはいつも突然で新鮮。クルクル変わる表情も弾んだ声も飽きない。

「ないよ」
「ん?」
「行きたいトコは特にないの」

まったくもって敵わない。自分の想像を簡単に飛び越えていく。

「じゃあこのままダラダラしてる?」
「それはつまんないよー」

だよなぁ。どうしたもんか。あ、

「あ。そういえばあの映画の上映いつまでだっけ?」
「あの、ってこの前観たいって騒いでたやつ?」
「そうそれ」
「多分あし、た」
「よし、行こう」

玄関に向かおうと華麗に普通のターンを決めた瞬間に

「やだー」

地でコケた。

「あ、ナイスリアクション」
「奈々子?そういうことじゃなくてね…」
「冗談だって。ほら、行こ?」

可愛く首を傾げて左手を差し出してくる。もう、このおちゃめさん。しっかりその手と繋ぐ温もり。

「あのねー」
「うん」

あぁ、いい笑顔だ。

「ポップコーン食べるの。そしてコーラ!」
「あー、ベタにね」

たまに奈々子は世間一般からズレる、気がする。気のせいだとしておこう。

「じゃあ俺はキャラメルポップコーンね」
「えー邪道」

そうくるか。

「ねぇねぇ、健一ぃ」
「はぁい?」
「忙しい?」
「いつ?」

多分会話の中で主語はそれ相応に大切じゃないかな?

「なんていうか、最近?」
「そうだねぇ。あんまり構ってもらえないから寂しい?」
「声は聞くから別に」

映画館に行くために電車に乗り込む。

「俺は寂しいけど」

そう本音を言ってしまうと、奈々子はキヒッと悪ガキのように笑った。

「しょんがないなぁ。この奈々子ちゃんが小まめに会いにきてあげますかぁ」
「ありがとーござーまーす」

二人して視線を電車の外の景色に向けて笑う。家を出るときから繋いだ手がそのままで。

「ねー奈々子。幸せ?」
「んーそうだなぁ。健一は?」

繋いだ手に二人して力を込めた。さらに同時に口を開いた。

「「二人でいればいつまでも幸せ」」

離れられないよ。



fin


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