留まる想い
なんでも簡単に諦めて、想いまで諦めて、なんなの?苛立って、意気地なしと叫んだら、そうだねって言ってヘラヘラ笑う。これじゃあずっと片想いしている自分が馬鹿みたいじゃん。好きな人がいる人を好きになって、報われない。それでも諦められなくて、傍にいられるだけでいい、なんて綺麗事並べて。そうまでして諦められなかったのに。なんで?
「保村のバカ!ハゲっ!ヘタレ!」
この際言い逃げしたって許される。
「篠崎?!」
呼び止める声がしたけで構うことない。走り出した足は止まらないし、諦められなくて黒く濁った想いも止まらない。汚い感情を見せたくないから止まらない。
逃げて、一人で、トボトボと、歩く。
頬を触れば、乾いた涙の跡がなんだかザラザラしていた。気になって何度も擦る。痛い、と思ったけど、擦った目元がなのか、心がなのか分からなかった。
「バカ保。…ばかぁー」
「うん、ごめん」
追って来てるなんて思ってもみない。焦ったところで泣いた目はどうにも隠せない。振り向かないでそのまま歩けば、ついてくる足音。ついてくるのは足音だけかと思えば声もついてきた。
「俺なんか怒らせるようなこと言った?よね」
自覚あるなら諦めないで頑張るの一言でも言え。
「あの?篠崎?篠崎さーん?奈々子ちゃん?」
ピタリと足を止めてクルリと振り向いてブワリと、奈々子ちゃんの素敵に無敵な右フック。
「うぎっ!?」
よっしゃああ!決まった。
「ちょっ…篠崎さん?」
「簡単に諦める言うなっ!簡単に…諦めないでよ…」
「えっと……」
そこでなんか言ってよ。私がなんだか馬鹿みたいじゃん。こういう時に言えないからヘタレなんだ、絶対。
「諦めるなら当たって砕けてよ。当たらないなら想い続けてよ!」
なんかもう私もめちゃくちゃだ。人のこと言えないかもしれないのに。
「篠崎、泣く」
「ごめん、忘れて。私、帰るし。またね」
泣くな、なんて優しい言葉を掛けないで。僅かに期待しちゃうから。僅かでも期待できちゃうから。
「…わかった。頑張ってみるわ。じゃあ、またな?」
帰ろうと背を向けたままヒラヒラ手を振って、少し俯きながら歩く。角一つ曲がって、下を向いて歩いた。溢れる涙はさっきの続き。今度は乾かないし止まりもしない。
想いを告げてしまえば良かった。そう思ったら治まった涙はまた溢れ出す。だから後悔なんて嫌いなのに。
試しにサヨナラと呟いた。
悲しいだけだった。
fin
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