甘い日常


台本を読んでる後ろ姿。

「えへへー」

抱き付いてみた。

「だぁーい好きっ」

言ってみた。
珍しく慌ててる。
振り向いてこっちを見た。
その口は開いたり閉じたりを繰り返してる。

「なんかね、言いたくなったの」

んふふー、と笑い返す。

「大好きだよ」

言い繰り返す。
これ以上ないくらいに気持ちを込めた。

「まーくん?照れてます?」
「奈々子ちゃん…不意打ちは止めよう」
「成一がいっっつも、してくるじゃん」
「俺が悪かった」

お?なんだか私いつになく優位だぞ?

「成一。あのね、耳貸して」
「……返してね」
「善処するから!」

軽口を叩いてから耳元に口を寄せる。

「愛してるんだよ?」

にっこり、として成一の顔を覗けば放心状態。これが世に言う魂が抜けてるってやつ?

「成一やーい」
「奈々子やーい」

ただの条件反射のような気がするけど、まぁ、大丈夫そうだ。
ソファー越しに抱き付いていた体を離して、正面に廻る。そうしてもう一度抱き付く。

「大好きっ」

激しくどもりながら人の名前を呼び始めたから、これ以上言うのは止めておいてあげよう。そう考えて、紅茶でも入れようかと背中を向けた。

「どこ行くの?」

途端に後ろに引っ張られた。

「台所までだけど?」
「やだ。ここにいて」
「でも紅茶飲みたい」
「奈々子ちゃん好き」

ぞくり、と声が体中に浸み渡る。

「さっき自分で不意打ちはダメって言ったくせに」
「それは奈々子ちゃんがイイコトばっか言ってくれるからじゃん」
「だって…なんか言いたくなったんだもん」
「イイコト言ってくれたお返しにイイコトしてあげようか?」

首筋に当たる息がくすぐったくて、少し身をよじる。でも巻きついてる腕が逃げることは許してくれない。

「どうする?」
「今はまだいい」

選択肢をくれるから、ついついほだされる。

「後でね」
「いいよ。奈々子ちゃん大好き。愛してる」
「私が先に言ったもん」

少しばかりの反抗は、じゃあ俺も、好きだよ。と軽く丸め込まれた。

「成一…」
「んー」

膝の上に抱え込まれてる状況。だけど、離して、なんて言いたくないの。

「好きだよ」

これじゃあ馬鹿の一つ覚えだ。それでも溢れてくる、好きだよ、を伝えていたら、

「奈々子ちゃん最高!」

ますます強く抱きしめられた。



fin


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