いつか、より今
甘い、甘い、甘い、言葉を頂戴。甘く、甘く、甘く、夢に落として。
お腹辺りを彷徨っていた顔がっこっちを向いた。
「奈々子?」
怪訝な表情と声。そんな苦いものはイラナイの。
「浩史、好き。…好きなの」
「……そういうセリフは、んな顔しながら言うんじゃねーよ」
甘いモノをくれれば、いくらでも笑顔でいられるわ。だって、女の子はお砂糖と素敵ななにもかもで出来てるのだから。
「浩史っ」
切羽詰まった声になりながら名前を呼べば、熱くて甘い、他の事なんて考えられなくなるキスで口を塞がれた。
「んっ………ぅんっ…ん……」
熱くて甘いなんて、アップルパイ?それともフォンダンショコラ?乱れた息を整えようとしながら、そんなことを考えていれば脇腹あたりにジリジリとした痛みが走る。
「他の事、考えてんな」
「浩史のことしか、考えてなっあっ!」
甘噛みされて、舐められて、再びお腹辺りにあった顔がゆっくりと体を辿り、上へと上がってくる。
「奈々子、何考えてんだよ」
「ぅあっ、はぁ……んっ、だからっ、浩史の…!」
違うだろうとばかりに、今までシーツに預けていた手も動かしてくる。
「奈々子」
いい加減にしろ、と低く低く囁かれる。そうされたら、もうこっちは白旗を揚げることしかできない。
「今が、今がね、いつか、偽物になるなら、夢のままでいさせて欲しくて。甘く甘い夢に落としてほしくて」
熱に浮かれたような内容に話し方。それでもジッと聞き入ってくれていた浩史が唐突に立ち上がる。黙々と服を調え終えると、お前もだ、と服を投げられた。
「その偽物にも、夢にもさせなけりゃいいんだろ」
「浩史?」
「なにしてんだよ。奈々子、置いてくぞ」
慌てて身支度を終えて、二人で街に出れば、もれなく指輪と紙が一枚ついてきた。
fin
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