しない、なんて嘘


恋をして、別れて、悲しくて、一日泣いて、分かった。なんで私があんな奴のため、でもないけど、泣いていなきゃいけないんだ?そうだよ。悲しくは、ない。次の日の朝から、部屋中のカーテンを全開にして、一部の窓は網戸にして。太陽の光と新しい空気を部屋に詰め込む。しばらくして、窓を閉めて、暖かさを増していく中で、ホットミルクを甘めに作って。彼氏だった奴との思い出は全部捨ててやった。と、そこで携帯がメールの受信を知らせてきた。開いてみて、あんぐりと口を開けてしまった。───あ、そうだ。放心してる場合じゃなかった。玄関に向かって鍵を外す。

「よお」
「何の用でしょう?神谷浩史さん」
「飯食った?」
「…まだ」
「じゃあ作れ」
「はあ?!ちょ、こら、神谷!」

突然の訪問者はこっちの返事も聞かずに、さっさと部屋の中に入っていく。断じて、ここは神谷の家でもなければ、彼女の部屋でもない。

「神谷!こういうのは彼女に言いなよ」
「そういうこと言うなら、奈々子は俺をちゃんと先輩扱いしろ」
「や、確かに先輩なのに敬ってないのは確かだけど、って今は関係ないし」
「関係あるから言ってんだよ、馬鹿。ほんっと物分り悪いな」
「神谷さんの話が要領得ないだけですよ」
「先輩扱いするな」
「さっきと矛盾してるし」
「してない」
「してる」
「とりあえず飯作れ」
「だから、そういうのは彼女に」
「いない。だからお前が作れ」

なんだ、彼女いないのか。いきなり複雑な気分にされたまま、適当にカルボナーラを作る。お手軽レシピ。神谷は感謝も言わず食べてるけど、食べっぷりの良さに、許してやろう。

「なあ。奈々子、お前、別れたのか?」
「昨日。人が料理してる間に家捜し?普通ストレートに聞いてくる?」
「遠まわしに聞く必要があるのか?」
「別にいいけど」
「なんだよ。次がもういんのか?」
「だから質問がストレートすぎる。……次なんて、いないし」

神谷に合わせていると、おかしくなる。こんな正直に話すつもりなかったのに。

「いない?」
「しばらく恋なんて、いらない」

食べ終わった神谷が無言のままに立ち上がる。なにかと思えば帰るらしい。本当にタダ飯食いに来たのか。

「お前がそう言っても、すぐに恋させてやるよ」

声だけ残してさっさと帰ってく。私は。私は。しばらく恋なんてしないと決めたのに。また揺れ動き始めて。───神谷のせいだ。



fin


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