意思素通
「正面抱っことお姫様抱っこと、どっちがいい?」
「なに話?」
時を遡ること数分前…いやいや。なんにもなかったし。なに突然。
「あーじゃあ、どっちが好き?」
好き?!え、それはされるとしたらなわけ?え、あ、え?じゃあ、
「どっちもイヤ」
「真の大馬鹿ヤロウ」
なんでさ?!え、じゃ、じゃあ、
「正面抱っこです…」
「よし。じゃあ、はいっ」
はい?えーっと、前ぇ習えとか?
「ホムラくーん?」
「ヤスムラです」
「そう呼ばれたいなら私の考えを察しやがれ」
あーもう。この子は可愛いくせしてなんでこんな言葉遣いなんだろう。あれだ。喋らなければ可愛いのに。ってやつだ。あーあ、可愛いのに眉間に皴寄せちゃったりして。跡ついちゃったらどうするのさ。可愛いのに。って俺、なんか可愛い言い過ぎっぽくね?つーか奈々子下向いちゃってるし。
「馬鹿ヤス…」
「はい?」
なんか声のトーンさっきより低くなってない?俺の気のせい?ねぇ、気のせい?
「保村…」
「う、ん?」
「…考えてること、さっきから全部、包み隠すことなく残すことなく余すことなく、口に出してんだけど」
え?…マジで?
「だから声出てるから」
「えーっと、とりあえず顔あげない?」
って赤くない?もしかして照れてたりする?
「もう勝手にするさっ!」
はぁ?!
───乗られた。
書いて字の如く、乗られた。
「あの、奈々子?」
「知らない聞かない譲らない」
奈々子の三箇条発生。使用用法は多種多様。
ソファーに座ってた俺。さらに正面向いて俺に座る奈々子。しかもしがみつかれてるから身動き取れないときた。
「奈々子?なんかあったの?」
ってさっきまで普通にしてたよな。
返事の代わりに首を締められる勢いで抱き付かれた。
「よしよし」
背中をポンポンと叩けば──首を引っかかれた。なんなのさ!?
でも耳まで赤いしなぁ、照れ隠しだしなぁ、しょうがないか。なんたってそれすら可愛いし。これあれだわ。ベタボレ。
「んで、そろそろどうしたのか聞いてもいい?」
「人肌恋しくなっただけ」
「最初から抱き付いてくればよかったのに」
そう言って少しばかり優位に立とうとしたら喉元を甘噛みされた。
「調子のんな、ハゲ」
「ハゲてないし!」
やっぱり奈々子相手には優位に立てないらしい。仕方ないから、これでもか、とばかりに抱きしめ返した。
fin
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