寂しんぼ
「あの…拓篤、くん?」
「なに?」
街中!ここ、街中!いや、同じようなカップルはいないことはないんだけど、普通、恋人繋ぎとかいうやつのほうが主流というか、メジャーというか。
「にャ!」
「猫がいる」
「笑ってるな、確信犯!」
確かに耳の裏は弱いよ?触られただけでもね。それに付随する感じで首筋だって、無理!わかってるはずなのにっ。
「肩から手、どけるのー」
「なんで?つか、あの店見てい?」
肩に回された腕。その手が、悪戯に時折、首付近を触ってくるから。
それにしても、まったくもって自分の世界だよ、拓篤。振り回されっぱなしだよ、奈々子。
「奈々子」
「なぁに?」
「なんでもない」
そういった傍から耳朶を撫でられた。瞬き程度の時間で終わって、また手は定位置でもあるかのように肩に添えられた。
「疲れた?休む?」
「あ、えっと、」
「ま、俺は疲れてないからまだ休む気ないけど」
「……拓篤って、なんていうか、こう、」
「カッコいい?」
「違うから!」
わかった。気にしなければいいんだ。肩に腕なんて回ってない。回ってない回ってない。よし、回ってないんだ!
………いや、無理だろ!?
「拓篤!」
「なに?」
「肩に手回すな!」
「だからヤダって言ってんじゃん」
強引に離れてみる。拓篤は呆れ顔。手も繋がないで歩いてみる。
あれ?
なんか、
なんか、寂しい?
「次はどこ見る?」
「休みたいんですけど」
「あーそう。あ、あの店見るわ」
2歩も3歩も先を歩き始めた拓篤の背中を眺める。なんか、寂しい。間違いなく寂しい。なんで?なんて、わかってる。理由なんてすぐに思い当たる。
「拓篤、」
小さく呼んだ声は周囲の雑音であっけなく掻き消えてしまう。だから余計に思ってしまう。
なんてことを考えていたら、自分でも気づかないうちに足を止めていた。拓篤が人混みに紛れて見えなくなる。目指してた店に行けばいるんだろうな。それで、やっと来たの?とか言われるんだ。
「人でなしぃー」
「さすがにひどくね?」
「たたたた拓っ?!」
「なに?」
先に行ったはずなのに?
「って、腰に腕回すな!」
「奈々子が肩ダメっつーからだろ」
「拓篤っ!これもダ」
「ここでキスされたい?」
大人しくさせていただきます。
「疲れた?」
「…少し」
「あーそう。じゃ休むか。」
寂しさは消えた。……これでいいのか?
fin
- 28 -