とりあえず眠い


名前を呼んで。声が届くほど近くで。心臓の鼓動が聞こえるほど間近で。ねぇ、いつまでも名前を呼んで。それだけで、証になるから。私があなたの傍にいてもいいのだという許しになるから。名前を呼んで。

「奈々子?奈々子ってば。おーい。起きてる?」
「んっ…起きてる、よ。にゃにー?」

目を開けないまま、声のしたほうに手だけ伸ばす。苦笑の声が聞こえたけど、腕を引っ張り起こされたから、別にいいか。引っ張られたままの方向に、なんのとまどいなく倒れこんでいくと、すぐにふわりとした匂いにトンとぶつかった。

「にゃんでもないですよー」
「んーウソ」
「奈々子が寝てるならベッドに運んであげようかな、と思って声かけただけ」
「…んでもなく、ないひゃん」
「舌回ってないけど?」

反抗しようとしたけど、なぜか力が入らない。それほど、眠いってことなんだろうけど。触れている人肌のぬくもりに益々持って、眠気を増やされる。今自分のオデコがくっついているのは、相手の胸元なのだろうな、と当たりをつけて、眠さを打ち消そうと擦り付ける。

「なにこれ?拷問?お預け?」
「んー?」

頭の回転がいつもの5倍、いや10倍は遅い。今、なんて言った?

「しゃーない。よいこらしょ」
「じじくしゃ」
「舌の回らないガキんちょには言われたくないね」

揺れる浮遊感、抱き上げられたのだろう。相手の首に腕をユルユルと回す。

「たくー」
「なに?」
「思ったの。夢でお願い」
「わけわかんないんだけど?」

タクもそんなに身長のあるほうではないけど、それよりさらに輪をかけてちみっこい私。抱き上げるのには楽なのかな?数歩歩いて降ろされた。ベッドの上だとはわかったけど、ぬくもりが離れていくのが嫌で、イヤイヤと服を引っ張る。

「やっぱり拷問だろ?で、夢でお願いって?」

タクはなにかを諦めたみたいで、一緒に横に転がる。頑張って目を明ければ、明るい髪が目に入ってきて、そこに手を伸ばす。ゆっくりと髪を手で梳いてみせると、タクがまた苦笑したみたいだった。

「焦らし作戦?」
「ちがー。んね、名前」
「名前?拓篤?」
「私の」
「奈々子?」
「そう。もっと。それ、好きなの」
「名前呼ばれるのが?」
「うん」

オデコにオデコがぶつかってきた。目を開けてる気力がなくなって、再び瞼を落とす。

「起きたら好きなだけ呼ぶから。今は寝てろよ」
「ん。おやすみ、拓篤」
「おやすみ、奈々子」

あぁ、なんだかいい夢が見れそうだよ。



fin


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