嘘で涙、私は愚か
いらないイラナイ。なんにもいらない。嘘。ウソうそ。本当は欲しい。全部ゼンブ欲しい。
泣きじゃくって、これ以上ないってぐらい泣いて、そうじゃないって繰り返して、それしか言えなくて。
ごめんね、ごめんね。
相手の背中に腕を回して、一杯いっぱい抱き締める。されるがままになってる相手は、うん。しか言ってない。
「ごめんね。嫌いなんて嘘なの。ごめんなさい。嫌いにならないで」
これでもかという程に相手と自分に温度差があるのがわかるけど、わかるから。
手を離す。
潔く諦めないと。これ以上嫌いになられても、嫌。
「ごめんね」
一歩足を引いて、体を離した。最後まで未練がましく残っていた、服を握っていた手を離す。ああ、これでアナタとさよならサヨナラ。
「奈々子、泣かないでよ。それよりも泣くな」
覆い被さられるように抱きしめられる。強くツヨク、ぎゅっと。
「紀章くん…」
そっと胸を押せば、簡単に体が離れた。紀章くんが今どんな顔をしているのか見たかった。
「泣くなよ。どうしたらいいか分かんない」
「後ろ向いてて」
「うん」
「じっとしてて」
「うん」
向いた背中に抱きつく。ごめんね、と好きだよとギュウギュウに混ぜて抱きつく。好きスキ、好きだから。
「大っ嫌いなんて、嘘。別れるなんて大嘘。ごめんなさい」
こんなにも大好きなのに、私は悪い嘘つき。
「奈々子、だから泣くなって」
「泣いて…ないよ」
「……そ」
困らせたくないのにな。ゴメンごめんね。
「奈々子。好き。大好き。ていうか愛してる。だから、」
「だから安心しろよ」
そんな言葉を聞いたらダメだよ、また泣けそう。今度は違うの。嬉しくて嬉しくて泣けてしまうよ。
「手広げて」
言われた通り、前に回したまま開く。ギュッと左右握り返された。
「伝わる?」
「うん。ごめんね、じゃないね。ありがとう」
こんな馬鹿な私を許してくれてありがとう。また、ぬくもりを分けてくれてありがとう。抱きしめた大好きに気づいてくれてありがとう。沢山たくさんアリガトウ。
「落ち着いたらこっちに帰ってこいよ。待ってる」
そう言って手を前に引かれる。正面に、紀章くんの顔が見える位置においで。そう言ってくれる。言葉は遠回り、でも行動でまっすぐ示してくれる。待っててくれる。
今度は愛してるを含ませて、ありがとう、と呟いた。
fin
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