勝つか負けるか
なんて自分勝手な思い上がり。なんてあっけない自己満足。ポロポロ零れ落ちる涙を拭う気もなく、拭ってもらえることもなく、抱え込んだ自分の膝に落ちては落ち、ジーパンを濡らしていく。好きだったのに、好きだと思ってもらえてたのに。
恋愛じゃ、なくて。
忘れよう。泣いて泣いて忘れてしまおう。零れ落ちる涙に八つ当たりしたい気持ちも流してしまおう。全部を全部、流してしまおう。
あれ?鍵かけたっけ?
泣き疲れて、眠っていく頭の片隅で思った。思ったのに、堕ちていく。疲れた体と心が堕ちていく。
物音がして目が覚めた。覚めて良かった。危うく過ちを犯すところだったかもしれない。
「紀章…なに、やってるのかなぁ?」
「お構いなく」
「構うっつーの!こらっ!ひ、との、服を、脱が、せ、よーと、するなー!」
頭をはたけば、上にあった体が一先ず起き上がった。
「なんでいるの?」
「鍵あいてたから」
「違くない?」
何かが違くない?
「きっと当ってる」
「どこから出てくるその自信?」
……とりあえず顔でも洗いに行こう。………。
「紀章、どいて」
「無理。あ、ここ舐めてくれていいよ」
そう言って自分の舌で口端を示してる。何を!?と思ったけど、よくよく見れば、やけに赤い。
「ちょっ?!切れてるじゃん!なにしたの?!」
仕事に影響でたらどうするの?!そう繋げようとしたのに。
「アイツと奈々子の別れ現場を偶然、偶然に目撃したから」
「は?」
繋げようとしたセリフは、勢いよく見えない目的地に向かって全力疾走。
「あれはアイツが悪い」
「もしかして…殴られたの?」
「殴ったけどな」
なんてアクティブな…。
「な?だから奈々子からキスしてくれていいぜ?」
ご褒美代わり?う〜ん…一回だけ、なら、いいのかな?
「その後の了承と見なすから」
危ない!危なかった。魔の手に掛かるとこだった。
「奈々子?あれ?してくれないの?」
「当たり前だ!」
「そりゃ残念。じゃあ、」
「こらこらこらこら!」
なんばしよっと?!思わず標準語じゃなくなっちゃうよ?これ。
「奈々子好きだし?愛してるし?」
「そういうことではないからっ!」
続く攻防戦。
「そしたらコレだけで我慢するって」
降ってくるキスを思わず受け止めようとした。
「多分な」
攻防戦、再開。一瞬足りとも気を許すもんか!固く決意した夜だった。
fin
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