罠とトラップ
「ハグしてよ」
一瞬耳を疑った。して?して、って、私から?
「ハグぐらいいいじゃん」
それはそうだ、よね。ただ、あなたのいる位置がベッドの上っていうのがおっきく引っ掛かってるんですけど。
「ほら」
両手を広げて待たれるとなんとなく従うしかないような。ベッドに片膝を乗せるとキシッと鳴った。両膝を乗せるとギシッと鳴った。なんで私ただのハグにこんな緊張してるんだろ。そうだよ、ただのハグじゃん!短く、詰めていた息を吐き出す。腕を伸ばして抱き付く。
「これでいい?」
「うん」
なんだ、やっぱりそんな構えなくて大丈夫だったんじゃ
「じゃあキスして」
「はあ?!」
「もちろん奈々子から」
誰かこの暴走を止めて下さいっ!思わず背中に回していた腕を外して紀章の胸を押す、が離れない。
「出来ない?そうか、それは残念だな」
だからってなに腰に腕回して、って、背中!
「冷たっ!ちょ、紀章!なに?」
「ただ背中なぞってるだけだけど?」
耳元で囁き声を出すなー!背中を這う冷たい感覚が相乗効果がっ。
「服の下に手を入れるなっ、コラっ!」
「奈々子からキスしてくれたら考える」
動いてなかった手が首筋を撫でた。
「ひあっ!?」
「ククッ…キスしろよ」
自分の手で紀章の目を塞ぐ。短く唇を合わせる。
「ちょっ、したか、んーっ!…んっ、」
背中から手はどいてないしっ!てか、これ私からキスした意味なくない?!しかもちょっとした呼吸困難まで体験しちゃったおかげで涙目だよ。
「なに?足りないって?」
「足りてる!足りてるからっ、押し倒すな!」
「俺が足りないから」
「そうじゃなくて!今、私からキスしろって話じゃなかったの?」
「やっぱされるよりする方が支配感あるじゃん?」
や、その感覚はさっぱりしっかりすっぱり分かりません!
「言い方変えてやろうか?」
支配感は言い方だけの問題か?
「キスしてほしい?」
「そっちかよ?!」
思わず声に出して突っ込んじゃうよ。バカじゃないの?!は辛うじて飲み込んでおくよ。
「奈々子。あとあれだ。やられたらやりかえす」
なに爽やかに笑いながら言ってんの?!
「勿論仕返しは倍返しだろ」
だから抱きつくかわりに抱いてやる。聞こえた言葉に私の返すべき言葉達は薄情かな。スタコラと逃げていった。
fin
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