勝てない


繋いでいた手が急に離れていって、途端に寂しくなった。突然黙り込んだ自分を不思議に思ったのか、相手が振り返った。

「どうした?」
「べ、別に…なんでもない」
「ふーん」

突然黙り込んだ上に、突然立ち止まってしまった足っを動かす。悠一を追い越して、少し前を歩く。

「奈々子、器用だな。手と足、同時に出てるぞ」
「……自分、不器用ですから、そんな」

とりあえず平常心だ。もう一度立ち止まると、今度は悠一に追い抜かれる。

「なにか言いたいことがあったんじゃないのか?」
「な、なにかって?」
「いや、それを奈々子に聞いてるんだけどな」
「そ、そんなことないですよ?」

足早に歩いて、また悠一を追い抜くと、その瞬間ポンと頭を撫でられた。

「さっきから、どもりすぎ。言いたいことがあるなら言えよ?」
「…確信犯?」
「まさか」

いや。ありうる。ありえすぎて、その爽やかなはずの笑顔さえ怖い。

「寂しくさせるために、まさか、わざと手を離してみたりするわけないだろ?」
「やっぱ確信犯じゃん!」

あーあ…笑顔、黒っ!腹黒!この人怖っ!呆然と立ち尽くすと、また悠一が追い抜いていく。

「悠一の馬鹿。意地悪。Sっ子」
「全部違う。べつに馬鹿でも意地悪でもSでもない」
「そんなことないし」
「そうか?」
「そうだよ!」

悪びれるどころか、笑い声まで上げ始めたし。さらにはテクテクと歩いていくから、慌てて追いかける羽目になる。しばらく無言で後ろをついて、思った。手、結局繋ぎなおしてくれない?!

「悠一」
「なんだ?」

こっちを向かない。だから決めた!

「とうっ!」
「うわっ!」

思いっきり悠一の腕に、自分の腕を突っ込む。

「手はいいのか?」
「腕組の方がランク高くない?」
「奈々子は我侭だな」

返事はしない。そうですよー、我侭ですよー。

「それに」

それに?それに、って、何か続きが?

「可愛いな」
「……はぁあ?!」
「間違えた。面白いな」
「はあぁぁああ?!間違いなの?!そこ間違えるとこ?!」
「奈々子はやっぱり我が儘だぞ」
「悠一がひねくれてるんだよ」
「そうかもな。でも好きだろ?」
「っ?!ばっ、ばかぁ!」

あーもう滅茶苦茶になってしまえばいいのに!



fin


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