二人の時間


元気よく駆けていく姿を後ろから見ながら、お子様めと思うと同時に声をかける。

「あんまりはしゃぐと転ぶぞー」

いつしか何かのキャラで同じ台詞を言ったな。まぁ、それは置いておく。トン、と両足を揃えて跳ねるように止まって、奈々子が振り向いた。そこで漸く俺との距離が開いていることに気づいたらしく、大人しく待っている。大人しく、といっても、十分にウズウズした様ではあるけどな。あまりお預けさせても可哀相だし、少し足を早めて横に並ぶ。プフポフと数回頭を撫でてやると、嬉しそうに逆に俺の掌に頭を擦り付けてきた。お子様ではなく子猫だったのか認識を改めていれば、パシリと手を払われた。………そうか、もういいのか。って、どこまでも猫だな、おい。そしてジーっと見てくる。

「なんだ?」

声をかけてみれば、どうやら俺を見ていたわけではないらしい。………じゃあどこを見ていたんだっ!?レストランへ続くエレベータ前にさっさと移動してしまった奈々子に胡乱気な視線を送ってみるも、こっちを見向きもしない。そうか、俺よりレストランのほうが大事か。食べ放題だしな、デザートもお前好みそうだったしな。いいけどな。
やってきたエレベータは無人。珍しいな。中に入ればウキウキした様子で奈々子が服を握ってきた。フロア案内のパネルを見ながら、どうしたんだーと応えてやる。

「智和と二人だけでご飯って久しぶりで、なんか楽しくて嬉しい」

その視線が俺を捕らえている気がして、慌てて合わせようとしたが、瞬間、奈々子の視線は別方向へ。失敗した。クルンと大きな猫目を、きっとキラキラさせて、きっと嬉しそうに頬を紅く染めて俺を見ていたはずなんだ。なんで見逃したんだ俺は。奈々子が普段が普段、あまり表情を表に出さないだけにレアだったのにっ!
未練がましく奈々子を見ていたが、残念。エレベータは目的の階に到達してしまったようだ。後はもう店に入るしか選択肢はない、と思いきや、奈々子に服を握られたまま引っ張られる。どこに行くつもりだ?

「奈々子?」
「そこ立ってね」

非常階段まで連れて来られた。いや、この際場所はどうだっていいんだが、状況がわからん。俺の服を握ったまま階段を2段ほど登る奈々子から目が離せない。なにをする気だ?いや、さすがにこの前みたいにご飯の気分じゃなくなった、というわけではないと思う……思いたい。

「智和ともかず、目閉じて。早くー!」
「あ、あぁ」

訳のわからないまま、とりあえず素直に言うことを聞く。ここで機嫌でも損ねれば、出ている全てのデザートを一人で食べ尽くす勢いで張り切り出しかねん。そして間違いなく実行される。
そこまで考えの進んだところで、唇に何かが触れた。………唇、にっ!?

「ごちそうさまでした」
「あ、いや…お粗末様でした」

呆けているうちに、オマケのサービスとでもいうようにしっかりと抱きついた奈々子は、それでもさっさと体を離し、改めて目的の店に向かっていく。夢でも見てるのか、と頬を抓ってみるが、痛いだけだ。そうか、そうか…今日は随分と機嫌がいいんだな。理由を考えてみると、そういえば最近はデートというデートをしてやれてなかったことに思い当たる。………まぁ、その大半以上が奈々子が呼んできてしまっているわけで、俺としては是非とも二人だけが良かったんだがな。

「智和遅ーい!」
「あぁ、今行く」

食べ放題が逃げるー、と追い討ちがかかる。……安心しろ奈々子。食べ放題は、逃げない。



fin


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