玄関で音を立てないようにして中に入る。こっちに背を向けて話している人物に狙いを定める。こっちを向いている人物には、口に人差し指を当てて、内緒のお願い。表情を変えることなく、了承の態度を取ってくれた。よく分かってらっしゃる。

「それでだな、中村」
「そんなに熱くならなくても聞こえてる」
「ん、あ、ああ、そうか。いや、だからな」

面白いほどに、まったく話が進まないやり取り。そっと身を屈めて、いざ!
背を向けていた人物、つまりは智和に体当たりするように抱きついた。

「どぉっ!?………中村、」
「なんだ?」
「見えていたなら教えてくれ」
「内緒にしてくれと頼まれたからな」
「なっ!?お前は親友より親友の彼女を取るのか?」
「この部屋の中に親友はいるが親友の彼女はいない。親友の彼氏はいるけどな」

中村の謎かけのような言葉に智和はしばしの停止を見せた。表情がとてつもなく間抜けなことになってる。

「親友の彼氏とは俺か?親友が奈々子か?」
「それ以外に誰がいる?」

しれっとした態度のまま中村が肯定してみせた。否、口元だけは面白そうに少し上がってる。

「中村、中村」
「なんだよ、篠崎」
「これ以上やったら智和しんじゃう」

言えば、中村が立ち上がって横に来た。グイと上向いて顔を合わせれば、もれなくデコピンが付いてきた。………まったく痛くはなかったけど。

「帰る」
「ん、また今度ご飯食べに行こうねー」
「次はイタリアンの店な」
「探しとくー」

中村が玄関を出て行って、妙に大人しくなった智和の頭を撫でる。

「どうしたの?」
「次はイタリアンって…この間行ったときイタリアンだったよな?」
「………その後に3回、中華、和風、インドって行ってる」
「中村と二人っきりでか!?」
「いえす」

なんだか智和が悶え始めた。ちょっとキモいから、やっぱりちょっと距離を取る。そこでちょっと遠慮気味に、どうしたの?と聞いてみれば、

「奈々子と中村………二人っきりとは……俺は、俺は………なんて美味しいところを見逃したんだ…」

ちょっと本気でドン引きしたから、ちょっと強めに思わず頭をはたいてしまった。



fin

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