現地集合
軽く迷子です。地図を持ってるに係わらず迷子です。しかも駅から目的地までは角を一つ曲がるだけでつけるのに私は何回曲がったの?1、2…ダメだ、2が出てくる時点でダメだよ、奈々子!来た道、戻ってみる?
駅には戻れた。よ、良かった…。住宅地で遭難とかありえないとこだった。それにしても、ふむ。再び地図を片手に迷宮に挑む気にはなれないし…仕方ない。最終手段!
「…あのね、駅にはいるんだけどね、辿り着けない」
待ってて!と直ぐに電話が切れた。待ち合わせ時間を30分ばかり過ぎてる。改めて見れば不在着信が大量に出来上がってる。
「ごめんねー」
相手がいないのに呟いてみる。
「奈々子!」
え?え、え?!
膝に手を当ててゼェゼェと息を繰り返してる。近づけば汗で額を濡らしてる。
「早くない?」
一分?
「走っ、た…徒歩、3分…」
「迷ったの」
「30分?」
「う、ん」
うわ、ありえないって目が言ってる!
「だ、だって迷ったんだから」
「今度からは素直に駅で待ち合わせよう」
珍しくきっぱりすっぱりしっかり言い切りやがって…。
「でもいつもは迷子になんてならないのになー」
なんでだろ?地図の書き方を間違えてた?おかしいな。なんでだろう?と唸れば、真が嬉しそうな顔。なに?と聞いてみる。
「待ち合わせ相手が俺だったから浮かれてたんじゃない?」
違う…と思いたい。
「相手が吉野くんとか鳥くんならそうだったかもねー」
「奈々子、お前、それは彼氏に対して酷くないかい?」
「知ーらない」
「ぎゅうぎゅうに抱きしめるぞ」
「やれるのならどうぞ」
答えに詰まってますよー。だってこんな人前で、真がそんなことできたら明日は間違いなく槍だけとは言わず、釘バットやら拳銃やらなんやら降ってきちゃう気がするし。
だから、
「えいっ」
前に倒れるようにして、私から抱き付く。
「奈々子?!や、奈々子、奈々子、あのな、つか、奈々子!」
お、面白い。思わず唾をごくりと飲み込む。
「ダメ、なの?」
よしっ!ダメ押し!
「きょ、うは…特別だかんね」
「はぁーい」
人混みの中抱き付いてなにが悪い。本当はキスだってしたいのに。真は私のだって街行く人に自慢するのに。そう考えてたらしたくなってきた。
頬に一つ。
一秒後には大慌ての真が見れた。楽しい!と心の中でガッツポーズ。
fin
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