口は災いの元


「杉田。殴られるのと叩かれるのと、好きな方を選ばせてやる。選べ」
「撫でられる、じゃ駄目か?」

ソファーの上で体育座りをしながら、そんな二人の会話をポケッと聞いてみる。

「選択肢にはないな。却下だ」
「中村、人に優しくてすることは大事なことだぞ?」
「安心しろ。俺はお前以外にはいつでも優しい」

あ、ディズニー物のビデオ発見。なんだろ?あ、これなら前みたからいいや。横にあるのは…新米教師と魅惑の放課後?なんだこれ?

「だったらその優しさで俺のことも許せ」
「それは無理だな。お前は許せない」
「そんなとこで俺を特別扱いするな」
「いいから早くどっちか選べ」

相変わらず悠一は女王様だな〜。…雑誌かなんかあったっけ?あ、るるぶお台場発見。ナイスセレクトだ智和。

「落ち着け、中村」
「俺は冷静だ。早く選べ」
「撫でる…」
「そんなに死にたいか?」

叩く殴る云々から確実にレベルアップしたよ、今の。あ、これ可愛い!こんなお店あったんだー。チェックしとこ。

「なら、叩かれる…」
「わかった。そこに正座な」
「…わかった」

叩かれるほうが殴られるより確かに殺傷能力は低そうだもんねっ。二人に一回視線を戻せば、わー、上下関係がよくわかる。喉渇いたな。たしかブレンディがあったような。

「歯食い縛れよ」
「は?」

いい音が部屋に木霊した。…一応、氷も用意しとくか。見つけた牛乳に砂糖を少しでレンジでチン。

「奈々子…氷を…」
「奈々子、こんなやつに氷なんて大層なものやらなくていい」

どうなったかと言えば、両頬に綺麗な紅葉が出来上がってる。流石だ、悠一。

「奈々子…」
「奈々子」

はぁ。短くため息をはいて、氷の入った袋を智和に差し出す。

「悠一、あんまり智和虐めないであげて」
「…わかった。杉田、奈々子に感謝しておけ。今日はこれで許してやる」

それから10分しないうちに仕事あるから、と悠一は帰っていった。

「智和、なんであんな怒られてたわけ?」
「や、少しふざけたつもりだったんだけどな」
「まったく」

先にソファーに智和が座ったから、なんとなくその足の間、正面の床に座る。もちろんすぐさま智和がクッションを差し出してくるから、それを下に敷く。コテリ、と足に持たれ掛かる。

「私より悠一に構い過ぎると泣くからね。」
そう言えば微笑と共に「承知しました」と返ってきた。



fin


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