信じてるけど
電子音、ではなくバイブ音で起こされた。どれだけ眠りの浅い老人か、と自分で自分に悪態をついた。隣で寝ている人物は起きそうな気配がない。恨みがましくその様子を見ながら、起きる羽目になった元凶に手を伸ばす。手繰り寄せてから自分のものではないことに気付いた。チラリと持ち主がまだ起きていないことを確認して、悪いとは分かりながら恐る恐る手の中にあるモノを開く。
着信
ケイト
女の名前らしきもの。不安になって、ここまで見たら同じこと。履歴を呼び出す。
ケイト…ミワ…ケイト…ハヤ…タカホ…
これ以上は無理だと携帯を閉じる。夢だったらいいのに。そう思って自分の頬を抓ってみても痛いだけ。自分でも驚くほど声も立てずに泣いていた。なんで泣いているのか聞かれても言い訳なんて出来るわけがない。顔を洗いに行こうとベットを抜け出そうとした。少し腕から頭を離しただけでもう一方の手で力強く引き留められた。
「どこ行くんだ?」
「か、お洗いに…」
「まだ早い。…なに泣いた?」
するりと目の下をなぜられた。その感触に思わず目を閉じる。
「どうしたんですか?」
ため息混じりに言われて、言わないなんてこと出来ずに力なく単語を吐き出す。顔を肩に押し付ける。原因になったモノを告げれば、それを手に取り確認して、またため息を付かれた。見たの?と尋ねられて頷く。私の名前のない、それでいて女の名前ばかりの履歴。悲しくて悔しい。
「奈々子が思ってるようなものじゃあ、ない」
じゃあなんなのか。聞こうとする前に説明が入った。
「ケイト、これはK.T。
次にミワ。M.H。
ハヤ、はH.Y。
タカホがH.T。
ったくアイツらいつの間にこんな手の込んだことを…」
そう言われてもまだわからなくて眉を寄せていれば、次の企画の打ち合わせ連絡、とアイツらの愚痴聞き。と言われた。企画、と言われて思い浮かんだのは、今言われたイニシャルは───。
あぁ、と仰向けになって両手で顔を覆った。
「私バカみたいじゃない?」
「いやいや、嫉妬されるっていう素敵な体験をいただきまして」
顔面を覆っている手の甲に柔らかいものが触れてる。吐息が指を擽る。声が近くて。
「顔、見たい」
大人しく手をどければいい笑顔。
「おはよう」
続くであろうキスに目を閉じた。
fin
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