幸せの熱量
緩いゆるい眠りを繰り返す。緩くゆるく眠って目が覚める。否、覚めて、ない。白い光。あぁ、今日も朝が来た。そんなことを思う。眠いわけではないのに、緩やかにゆるやかに瞼は落ちてくる。
「起きたの?」
聞こえたコエは毎朝同じことを繰り返す。ウン、と私はコエを返す。そうすればクスクスと笑い声が部屋いっぱいに響いて、熱いぐらい温かい手が私の白い視界を塞ぐ。暗くなる視界。この手がどけば、また朝が来るんだ。そう。私は知ってる。朝はいつだってどんなときだって繰り返してる。
「奈々子」
呼ばれた気がして目を開けた。
「熱、まだ高いな。なんか食べれそうか?」
「……順一?」
「寝ぼけてる?そうですよ順一ですよ」
起き上がろうとして、やたらに体が怠いことを思い出した。
「まったく。一体どうしたら38℃なんて高熱を出すに至れるんだか」
ため息をつかれる。申し訳ない。
「それで。お粥食べますか?」
「食べます。いただきます」
用意されたものを大人しく食べる。おいしい…。薬まで無理矢理に──嫌だと言ったのに──飲まされた。あんな飲まされ方じゃ、味も効果もあるかどうかわかったもんじゃない。ブツクサと文句を繰り返していたら、まだ寝てろとでも言うように頭を再び枕に押さえ付けられた。視界を順一の掌が覆う。
「あっ」
「どうかしたか?」
「うーこれと同じこと夢でされたんだよね」
さっき起きた途端、夢を見たこと忘れてた。思い出した…わけでもない。なんか白い夢だった記憶しかない。なんだっけ?
「はぁ…」
またため息をつかれた。今度はなんで?
「その分じゃ一回起きてること覚えてないだろ」
「いつ?」
全く記憶にないんだけど。
「その時、起きたか?って聞いたら、奈々子、お前、もう朝?って聞いてきたんだぞ。」
「知らないっ…あれ?でもそんな風な夢だったかも。」
「同じように視界塞いでまた寝かせたし?」
そこまで聞いてやっと整理ができた。私風邪で熱だして、ここ順一んちで倒れたんだ。今更?まぁいいや。んで、
「今何時?」
「夜11時」
ん?記憶があるのは午前11時だけど?
「12時間寝続けるとはさすがに思わなかったぞ?」
なのにこの手はまだ私を寝させようとするのか。
「早く良くなれよ」
なんか眠く…薬のせいだ…
「じゃないとからかって遊べない」
最後の言葉は幻聴だったと思おう。きっとそれがいい。
fin
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