お見舞いは奇襲に似て


は?──間抜けな形に口を開いたままフリーズ。今、なんて?

「奈々子?大丈夫か?」
「ええ、まぁ、それなりに」
「ならよろしくな」

流されちゃダメだろ、ここ!

「櫻井さん!私まだ行くとは、」
「それなりに、大丈夫なんだろ?」

くっ、くやしい…。鍵、預かってあるからと渡された。本当に鍵だけ。失くさないようにストラップとか付けないの?他のも付いてたから、これだけ外してきたとか?まぁ、ありえるだろうけど。

「じゃあ、頼んだぞ」
「あっ、えっ?って本気でですか?」
「当たり前。それじゃ、俺は次仕事。じゃあな」

仕方、ない。意を決して辿り着いた玄関の前。一応呼び鈴を鳴らしてみるけど、案の定反応はない。ゆっくり鍵を差し込んで回す。鍵の開く音が、自分の中で嫌に響いた。実際はたいした音も立ってないはず。相手は病人だということに、一応気を遣って忍び足。寝室であろうドアを開ける。

「…んっ…櫻、井?」

どうやら問題の病人は起きていたらしい。寝ないと回復は遅いと思うのだけど。

「鈴村さん、大丈夫ですか?」
「へ…?っ!?奈々子ちゃん!?」
「こんばんは。あの、櫻井さん、仕事だそうですんで、代わりに。なんですけど、」

言えば、勢いよく鈴村さんは起き上がろうとして、上半身のみを起こしたところで、激しく咳き込む。慌てて背中をさする。近くから見た目尻はうっすらと濡れている。

「くっそー…櫻井め」
「あ、やっぱり…私が来たらダメでしたよね」
「や、や!違う!違くて!」

そうして、また咳き込む。興奮しちゃダメだよね?

「奈々子ちゃん…風邪、うつっちゃうよ?」
「丈夫なんで平気ですよ」
「そ、そっか」

起き上がっていた体が、またベッドに戻っていく。今度はうつ伏せで。そんな体勢だとさらに呼吸しずらいのではなかろうか。本人はなにを考えているのか、うつ伏せの状態で枕を抱きしめるという可愛らしいことまでしている。

「鈴村さん、呼吸しにくくないですか?」

耳まで赤くなってるし。

「ん…だいじょーぶ」
「薬、飲みました?なにか欲しいものありますか?」

真下を向いていた頭がこっちを向いた。同じように手を伸ばされた。

「奈々子ちゃんがいてくれたら、すぐに治る気がする」

手を握ってみる。

「じゃあしばらくお邪魔させてもらいます」
「……ありがとぅ」

後日、やっぱり私は風邪をひくことがなかった。



fin


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