愛しい時間
自分の左手を眺めてはムフフと笑ってしまう。ベッドに凭れ掛かって床に座っていれば、ベッドがギシリと音をたてた。
「自分があげたって分かってても、この状況は妬けるんだけど」
「えーだって嬉しいんだもん」
「なら俺を見て笑ってくれればいーのに」
振り返れば、あーあー、と呟いて後ろに勢いよく倒れていく姿。あ、なんかベッドに深く座っているからか、危ない気がする。引きとめようとしたけど、勢いのついた体には、だいぶ遅かった。ゴンと鈍い音がなった。よっぽど痛かっただろう。相手からは声一つあがらない。
「だ、大丈夫?健一?」
「だっ、だいじょ…ぶや、ない」
そうだよね、凄い音出たもんね。痛いよね。えっと、どうしよう。
「頭へっこんだ気がする」
「そこまで人間の頭は柔くないはずだから大丈夫」
頭を押さえながら起き上がった健一は涙目。なんというか、あの音を聞いて、その表情を見てるこっちとしても痛々しい。
「氷で頭冷やす?」
「奈々子が責任取って」
「え?」
どうやって?と聞く前にベッドを降りてきた健一が、少し距離を取って横に座った。そのままこっちに向かって倒れてくる。あれよあれよという間に、膝枕が完成した。そうして、指輪のついた私の左手を握る。指輪が見えなくなる。
「俺に妬きもち焼かせた奈々子が悪い」
「ちょっとその論理はわからないけど。……仕方ないなぁ」
そんなことを言いつつ、自分の頬が緩んでいるのが分かる。サラリと健一の頭を撫でれば、確かに立派なたんこぶが出来てしまってる。これは相当痛かっただろうな。
「もっと撫でてて」
「痛くない?」
「奈々子の手だから気持ちいい。このまま寝れそう」
「このまま寝られると、私が身動き取れなくなって困るから」
「えーいいじゃん。そしたら俺だけ見てられるよ?」
普通に、キョトンとした顔で返される。これが狙って言われた言葉とかだったら、言い返すことはそんなに難しいことではないのに。素面で言われると、そのストレートは、ずるい。
「健一、も、私しか、見れないん、だよ?」
「??それでいいんじゃない?」
自分の左手を見ていたより、嬉しいかもしれないけど、心臓には負担がかかりすぎる。恥ずかし過ぎて赤くなりすぎているだろう顔を隠そうとして下を向いて、そうしてから逆効果なことを思い出した。下を向けば、健一としっかり顔を付き合わせることになって、今度はしてやったり顔な健一の顔が視界に広がった。
「頭痛かったの、も忘れた」
起き上がると、キスされる。そこにあるのは、左手にある指輪以上の幸せ。
fin
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