トミとジェリー



「うっわ、くんなバカー!」
「逃がさねーぞ、奈々子!」
「マジ無理マジ無理マジ無理っ!」

事務所の中を右回り左回り、はたまた斜め横断なんてお手のもの。

「ふっざけんな、吉野っ!」
「真面目だけどなにか?」
「だー!うぜー!」

そこにドアを開ける人物一人。そして運悪くドアにぶつかる吉野が一人。立ってられず思わずしゃがみ込む。よっしゃ!ざまーみろ、と心の中で悪態をつく。

「てめ…中村…狙っただろ?」
「中村!たーすかったー」
「…なにしてたんだ?」

ビシッ!と効果音がつくほど迷いなく、吉野を指差す。

「あれ!吉野の手!ティッシュの中!」

吉野がティッシュで包んだ何か、を指先にぶら下げて見せた。

「ああ、ゴキ」
「なぁー!!それ以上言うんだったら死ね」
「はいはい。吉野、さっさとそれ捨ててやれよ」

紳士だ。や、吉野を見た後なら大概全員紳士に見える。

「ったく。猫が二匹追いかけっこしてなにかと思えば。なぁ、保村」
「誰が猫だっつーの!」
「真くん?!」

オズオズ、と姿を見せた真くんに飛び付こうとして、

「邪魔なんだけど、吉野」
「は?そっちこそ俺とヤスの仲に入りこんでくんな」
「はぁ?それはこっちのセリフだし。な、真くん」
「や、あの…」
「ヤスは俺のパシリだっつーの!」
「だから、その…」

小さく中村が猫の縄張り争いかよ、と呟いたのが聞こえた。それでも止まらない奈々子たちに呆れたのか、次に呟いた言葉は吉野に多大なるダメージを与えた、と思う。

「吉野、今日この後仕事だとか言ってなかったか?」
「あーそうだ、そうだ。サンキュ中村」
「じゃあ俺も帰る。これ(台本)取りに来ただけだし、どうぞごゆっくり」

よし、天敵(吉野)もいなくなったし。
「真くん、お昼食べた?」
「…食べに行く?」
「うんっ」

あれ?なんかさっき真くん、なんか言いかけてたような…

「なに言いかけたのさ?」
「ん?なに?」
「さっき奈々子が吉野と言い合ってたときなんか言いかけてたじゃん」
「あ、ああ。二人仲いいよね。と思って、」
「うん?」
「だから俺を理由にじゃれてるだけじゃん?って、」
「言おうとしたの?」

いや、うん、まぁ、そうなるのかな、なんて曖昧なことを言い続けてて、やっぱ真くんだよね、と変な感想が出てきた。

「よっちんは奈々子が好きみたいだけどね」
「なんか言った?」

ぼーっとしてたら折角の真くんの声を聞き逃した。ま、奈々子が真くんを愛してるからいいか。

代わりにギュッと抱き付いておいた。



fin


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