謝罪と声真似


会いたくない、なんて本気で思ったわけじゃない。本気で言ったわけじゃない。でも、その一瞬でも会いたくないと思ったのは本当で。そんなことを言ってしまった自分を殴りたい。ごめんなさい、と謝っても、聞き入れてもらうはずの相手はいなくて、謝ることもできやしない。本当はいつだって会いたいよ。声を聞い ていたい、姿を見ていたい、傍にいて欲しい。我侭の限りに、あなたが好きだと繰り返したい。会いたい。会いたいんだよ。

「ごめっなさい」

泣いて、しゃくりあげてくる嗚咽を限界以上に我慢して。直接届かない言葉を留守電に残す。聞いてもらえないかもしれない。なにも伝わらないかもしれない。それでも、伝えたくて。重いかもしれない。相手を苛立たせるだけかもしれない。それでも止まらない言葉。

「会いたくない、なんて嘘。嘘だよ。嘘だから、会いたい」

もう嫌いになった?もう私のことなんて嫌いになった?最後でもいい。一目、会いたい。

「だい、すけ」

玄関が鳴った。チャイムじゃない。ドアが、激しい音を立てていて、まるで玄関全体が鳴っているよう。恐る恐る相手を確かめる。

「奈々子?いるんでしょ?開けて。というか開けろ」

返事をしようにも、喉が張り付いたようで声が出ない。震える手で鍵を外す。

「んの、バカ!」

力強く抱きしめられた。息が止まるかと思った。

「留守録の声、テープじゃなくて俺だから!それぐらい判れ!」
「本、人?」

体を離した相手はガックリと頭を垂れる。

「こんなキュート、本人以外にいるわけないでしょう」
「、っ…ばか」
「そのバカに言うことは?」
「好き。大好き。会いたくないなんて、ごめんなさい」
「よくできました」

もう一度、さっきよりは優しく柔らかく抱きしめられる。

「謝ろうと思って来たら玄関前で携帯鳴ってさ」
「うん」

ボロボロの泣き顔をなるべく見られないように、相手の胸に顔を押し付ける。ゆっくりと頭を撫でてくれている手が気持ちよくて、目を閉じる。

「奈々子だってわかったら、つい真似してた」
「留守電を?つい?」
「こっちから謝る前に話したくなかったから」

結局先に謝られちゃったけどね、と笑い声が久しぶりすぎて、顔が見たくなった。顔を上げれば、優しい顔と視線が交わった。

「だいすけ」

名前を呼んだら、言葉が繋がらなかった。



fin


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